ごみだまろぐ

甲虫屋のネガティブ日記

わたし、もとの世界に帰りたくないわ 2日目

屋久島採集2日目です。


デジタルな目覚めだった。起きたのは午前6時で、就寝したのが午前4時だったから、2時間しか寝れていない。
宿(と、勝手に我々が呼んでいるだけだが)は宿泊用に作られた施設ではないので、思いのほか寝にくい。

晴れ?曇り?微妙な天気。


朝ごはんとしてカロリーメイトをぼりぼり食べた。なんだか非常においしくなかった。

今日の朝の船でカオカクシゾウ(長いので以下KKZ)とりっちゃんが来て、A地点で落ち合う予定だった。


実はA地点の近くに素晴らしい花ポイントを発見したので、一足先にそちらに向かい獲物をひとりじめしようと考えた。

で、実際に来たのだが……。

どうですか?この満開具合。



虫がいねええええ!!!!


掬うまでもない。目視しただけで、なーにも虫がいなかった。



がっかりしてめそめそして待ち合わせポイントまで行った。



待ち合わせポイントで2人を待っていると、やがて原付2台がやってきた。

そう、KKZとりっちゃんであった。挨拶もそこそこにこのあたりでの成果を話した。
この後どうするか話し合い、とりあえずC地点まで行き、採集することにした。

C地点はそこそこ標高が高いポイントであるが、難点としていつも観光客が多い……ということがあった。


C地点に着いてみれば、案の定観光客の車であふれていた。
KKZはしきりに観光客の悪口を言っていて、ようやく人気のない登山道まで歩いた時には、ヤツはぴょんぴょん跳ねながら奇声を上げていた。






彼の内面を知った気がした。



そこで昼3時くらいまで採集をしたわけだが成果はスカ。かろうじてりっちゃんがオニエグリを2頭出したくらいだった(KKZはかなり羨んでいた)。


結局A地点まで戻り、トラップの回収と新たなトラップを仕掛けた。


既に仕掛けてあった臭豆腐トラップにはカドマルエンマばかり来ていて辟易していたが、数個目のトラップを見たらこんなモノが来ていた。















ヤ、ヤクルリセンチや!!!!

やったーーー!!!と他の2人にも見せびらかし、あまりにも嬉しかったのでTwitterに「ヤクルリセンチ採ったどー!」と画像を上げた。








先輩から「それタダセンチじゃないか?

というコメントが来た。




確認した。うん。ヤクルリセンチじゃなくてセンチだ。



あああああーーーーーーっ泣きたい!と思ったが、KKZから「綺麗だからいいじゃないですか」と慰められた。

いい後輩を持ったなぁ……。




その後、私は急にしたくなったのでブツを創造し、糞虫トラップを作成した。

不織布に包んだソレをKKZに冗談で「いる?」と訊いたら、「いいにおいですね!」と返ってきた。




いいにおいですね!






冷静に考えれば虫が寄ってきそうなにおいですねという意味合いで言ったのだろうが、言葉選びが斬新すぎてヤツとは少し距離を置くことにした。

その後はD地点にヤクシマエンマコガネOnthophagus yakuinsulanusを狙い&ナイターをしに行くことにした。
D地点は某温泉施設のすぐ後ろにある登山道から入るらしく、KKZとりっちゃんは「ここから距離がありますし、先輩のバイクははやいので先に行って温泉に入ってていいですよ」と言ってくれた。

汗でべとべとだった私はお言葉に甘え、先にバイクで飛ばし(制限速度内で!)温泉に入った。


温泉は非常に快適で、あがったあと外で夕方の心地よい風を浴びていたらようやくKKZとりっちゃんの原付が到着した。
彼らは先に登山道に入り、私は荷物をととのえて、少し遅れてから登山道に入ろうとしたのだが……

温泉施設のオバチャンに止められた。


オバチャン「あんたたちこの登山道に入るの?」

私「はい、そうですけど……」

オバチャン「ここは温泉の駐輪場だから、山登りするならバイク停めないでくれない?少しの時間だけならいいけど」

私「そうだったんですか。失礼しました。では、この近くに登山客の駐車場とか駐輪場はありますか?」

オバチャン「ないよそんなの。ていうかあんたたち何しに山に登るの?こんな時間に山登る人なんて初めて見たんだけど


というわけで、仕方なくバイクと原付を移動させることにした。

温泉の駐車場のすぐ真後ろにあるとはいえ、D地点はれっきとした登山道である。しかも短いコースというわけでもないので、途中でテント泊しながら山に登る人もいるだろう。
駐車場がないというのは観光客は登るなと言っているようなものではないか。私たちは黙ってオバチャンに従ったのだが、かなり釈然としなかった。

まあ、温泉の駐車場だから客以外使うなというのは正論ではあるのだが……。


バイクと原付を移動させ、荷物を持って今度こそD地点を登った。KKZは先ほどのことがよほど癪に障ったのか、登っている最中に「屋久島の人間のくせにナイトトレッキングもしらんのか」とか、「登山道の目の前なのに駐車場使わせないとかおかしいだろ」とかしきりにボヤいていた。


気持ちは分かるが、まあアレだ。なんで直接言われた私より直接何も言われていないお前のほうがご立腹なんだ。


KKZの登山愛は半端なモノではないらしい。




ナイターの場所を決め、だいぶ暗くなってきたので私たちはヤクシマエンマのトラップ(臭豆腐)を大急ぎで仕掛けることにした。

私は馬鹿なことに「臭豆腐はぶら下げたほうが良いんじゃない?」と言ったら、KKZに「ヤクシマエンマは飛べませんよw」と返されてしまった。

な、なに。そうだったのか。全く知らなかったぞ、恥ずかしい……。


ヤクシマエンマは局所的な分布らしいのでどこにトラップを仕掛ければいいのか全く分からなかったが、カンで仕掛けた。


そして、最後のトラップを仕掛け終わり、みんなで一息ついていたころ……


木の根元でモゾモゾしているエンマコガネらしき虫を見つけた。








さっと手に取り、何なのか確認する。









前胸背は5角形。ひさごのような体型。










ヤクシマエンマだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!









大声を上げそうになったが、何も言わずただ黙った。イリエの時もそうだったが、どうやら私はイイ虫を採ると何も声を上げないらしい。

私のおかしな挙動に2人が気付いたのか、「何採ったんですか?」ととぼけた顔で訊いてきた。


私は、

「何を採ったか、だって?」



と勿体ぶり、








ヤクシマエンマに決まってるだろぉ!!!!


と2人の前で手を開いて見せてやった。


2人は最初「あーあ、この人また変なこと言ってるよ」みたいな顔つきをしていたが、やがて私の持っている虫が本当にヤクシマエンマだと気付き、目の色が変わった。

ヤクシマエンマが日没後に林内をうろうろしているらしいということに気付いてからは、3人でヤクシマエンマ探し大会が始まった。

始まったのでヤクシマエンマの写真は撮ってません!ごめんなさい!


ほどなく、りっちゃんが「これはー?」と声を上げた。2人で確認すると、彼の手に握られていた虫は間違いなくヤクシマエンマ。その辺を歩いていたよと言っていたので、どうやら本当に林内を歩き回っているらしい。


私とりっちゃんに先を越され、KKZが焦り始めた。しかし、彼の気持ちとは裏腹に、KKZの目の前にヤクシマエンマはなかなか現れてくれなかった。

私とりっちゃんは「またいた!」という感じで追加していくが、KKZだけなぜか一向に得られなかった。
思い出したようにポツポツと採れるので、個体数が多いというわけではないらしい。


しまいには、

「KKZは背が高いから見つけられないんじゃない?」

と2人に茶化されるはめにまでなってしまった。


焦るKKZ!!


彼の運命やいかに!!!!











「おったぁぁぁぁぁ!!!」


というKKZの声がようやく響いた。どうやら採集できたらしい。

これで心置きなく採集できるぞーと思い、一層真剣に探した。




ヤクシマエンマは林内をヒョコヒョコ歩き回っている他、比較的新鮮なシカ糞にも集まっているようだった。




私が10頭目を見つけた頃、KKZは1頭しか採れていなかったので「いるか?」と渡したが「いや、いいです」と拒絶されてしまった。

気持ちは分かるけど、減るもんじゃないし受け取っておけばいいのになぁ……と思った。単に自分が貧乏性だからかもしれないが。


結局1,2時間探して、私が13頭、りっちゃんが3頭、KKZが2頭という結果だった。3人で同じ場所をぐるぐる探していたのに、どうしてここまで差が出るのか不思議だった。私のヘッドライトの調子が良かったのかな?

その後、トラップ楽しみだなぁーという話をしながらナイターをした。ライトにキマダラミヤマカミキリが3頭ほど飛んできて、私のテンションがなぜか上がってしまった。


夜見回りをしたが、ゴミダマはオニツノゴミムシダマシToxicum funginum等をつまんで終了。あと妙なDipteraを採集したが、毒瓶で少し潰してしまった。

ライトに戻ると、KKZがハチモドキバエを採った!と騒いでいたところだった。私が採集したのもそうかな?と思い彼に見せたら、同じものだった。


KKZが「僕が知ってるハチモドキバエと違う」とおっしゃるので新種かな?といきりたっていたら、ハチ屋の先輩から「屋久島からハチモドキバエは記録されていない」というお言葉までいただいた(後にこれは誤りだったと判明するのだが)。テンションが最高潮に達したところで、ライトが切れて終了。

荷物を回収し宿に帰ると、カンショコガネが大量に飛来していた。

私たちは、なんだカンショコガネか……と見向きもしないで寝た。

(3・4日目に続く)