わたし、もとの世界に帰りたくないわ 3・4日目
屋久島採集3日目。
バイク乗りにとって最も身近で、最も気分が下がることはなんだか知っているだろうか。
事故?違う。いや事故を起こしたらかなり落ち込むが……
パンク?いや、そんな頻繁にパンクしたら困る。
正解は……
……。
土砂降りだ……。
KKZは採集に行きますと出かけたが、私とりっちゃんはかなり疲れがたまっていたのでそのまま昼ごろまで寝た。
昼過ぎになってもKKZは帰ってこなかった。雨は止む気配がなかったので、Twitterに「このDipteraは何ですか?」と昨日採集したハチモドキバエ?の画像を上げた。
ハチ屋の方々からすぐにコメントが来た。
「ヒロクチバエの仲間じゃない?」
ハチモドキバエ違うじゃん!
それから数時間後の、雨脚が弱まってきた頃、ようやくKKZが帰ってきた。
満身創痍で。
お前はどこで何をしてきたんだ。
詳細を聞くと、どうやら原付で転んだらしかった。あららー……。雨で道路が滑りやすかったからね。
KKZの体はかなり痛々しかったが、彼は別のことを考えていた。
「レンタカー屋にいくら取られますかね」
そう、彼の原付はレンタルだった。傷をつけたら弁償である。車では「ノンオペレーションチャージ」というものが存在するが、今回の原付の場合、修理代がそのまま請求されるようだった。
外に出て原付の傷の様子を見てみると……
ひどすぎワロタ。
幸いヘッドライトやウインカーは割れていなかったが、外装系がかなり傷ついていた。
外装系まるまる交換の場合、アホみたいな金額が請求されるだろう。また、マフラーにも傷がついていた。まさかマフラー交換まではいかないだろうが、もしその場合、良い中古の原付を1台買ってお釣りがもらえるほどの金額を請求されるだろう。
その後、KKZに「あのDiptera、ハチモドキバエじゃなくてヒロクチバエの仲間らしいよ」と言ったら、みるみるうちに鬼の形相になり、「先輩こんな(汚い)画像をTwitterに上げたんじゃ意味がないですよ」とお怒りになられてしまった。
(その後、KKZが自分で例のDipteraの画像を上げたが、やっぱりヒロクチバエの仲間だと言われてしまった)
デジカメで撮ったような、よほど綺麗な写真じゃない限りDipteraの写真はTwitterに上げないことにした。
夕方になると雨が完全に上がったので、まずはD地点に行き、トラップの回収をした。
昨夜あれほどヤクシマエンマが採れたんだ、タコ採れに違いない……と3人は予想していた。
結果タコ採れとはいかなかったが、5個のトラップで9頭採集できた。
これだけ採れれば十分ではなかろうか。
その後A地点に行きナイターと夜見回りをすることにした。
雨が一日中降っていたせいで、気温が低いのか甲虫はほとんど飛んでこなかった。
コイツはライトには来ないがやたら多い。
つまらないなあ……とライトの突っ立っていると、林道から車が来た。
奥に行っても山があるだけで、人家は無いはずである。よって、こんな夜中にこんなところに車で来る人間はろくでもない可能性が高い。
したがって、私たちはヘッドライトを消していないふりをした。
ナイターのライトまでは消さなかったのでバレバレだったが。
あろうことかナイター現場の横に車を停めた。
すわ、何か文句を言われるか!と全員身構えた。
(一応言っておくと、世界遺産の範囲外で採集をしているので正当です)
ガチャリと車のドアが開き、男の人がこちらに歩いて来た。
私は思い切り警戒心を丸出しにして相手の出方を伺っていた。
相手はこちらの様子を見てしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「ナイターですか?何か採れましたか?」
私は思った。
あっ虫屋だ。
失礼な対応をしてしまったが、この方は日頃Twitterでお世話になっている人だった。
この後虫談義に花を咲かせたのは言うまでもない。
しかし……
ライトに来る虫が話題になり……
「カンショコガネ採りました?あれはイシハラカンショコガネの屋久島亜種ですよ」
し、知らなかった!!!!!!
マジか……あの時全部採っていれば……ちくしょう……ちくしょう……
悔やんでも後の祭りだった。
またこの他にも、この方はかなり虫に詳しく、さまざまな事を勉強させていただいた。さらに採集したというコメダマまでいただいてしまった。ありがとうございました!
その後ライトと夜見回りをした。
ライトには甲虫が来ないので、しばらくするとみんなライトを放置して夜見回りに行った。
ヤクザルの鳴き声を聴きながらの夜見回りというのも雰囲気があって良かった。
KKZが狙いを定めた木にみんなで行くと、KKZがルイスホソカタムシを見つけた。
興奮して採るKKZ。
懇願する私。
KKZさま「成田さんはゾウムシ採ってくれるのでいいですよ」
よっしゃ!!!!!!!!!!!!
採っておくべきだゾウムシ。これからも頑張ろう。
夜見回りを終え、そそくさとイシハラカンショを採りに宿まで戻ったが、この日はなぜか、昨日あれだけ来ていたイシハラカンショが1頭も来ていなかった。ちくしょう。
夜見回りに精を出すりっちゃんとKKZ。
4日目。この日が最終日であった。結局この日も最後までA地点で粘ることにした。
フェリーのために正午には港に行かなければいけなかったので、採集できる時間はわずかだ。
私のバイクと、2人の原付。
私はビーティングでカミキリやらゾウムシを落として喜んでいた。
ゴミダマは……。
そんな薄い採集時間が過ぎ、やがてフェリーの時間が近づいてきた。
ああ……、もっと屋久島にいたいよ……、もとの世界に帰りたくない……
バイクから望む屋久島の山々。
ああ……
さよなら、屋久島……
車ではなく、自分のバイクで走る屋久島は格別だった。
私はバイクだけが友達だから、コイツと2人でどこまでも行きたくなるのだ。
また来ます!!
ありがとう!!!!!
(終了)
(後日談)KKZの原付の弁償料金は、本来なら外装系丸々交換だがそれだと高くつくということで塗装代だけ取られたらしい。不幸中の幸いだ。