ごみだまろぐ

甲虫屋のネガティブ日記

網を放り投げて、無様に走れ 1日目

始まりは九州オオズさんからの「3泊4日で大隅に採集に行かないか?」という電子メールだった。
3泊4日で大隅……。過酷な採集になることは目に見えていた。


そもそも大隅は、ぼくにとって未練のカタマリのような土地だ。大隅には、日本で3番目くらいにカッコいいゴミダマである、かの有名なオニユミアシゴミムシダマシPromethis amanoiがいるが、これまで3回大隅に行って撃沈している。それに加え、るへっせんす、のるちあ、すぴになど、採りたくても採れない虫がわんさかいる。
どんなに過酷な採集になろうと、このチャンスを逃す手はない。


採集1日目。

今日は遅刻せずに待ち合わせ場所に到着した。九州オオズさんと話しながら大隅に向かう。九州オオズさんはアカアシオオアオカミキリが狙いらしい。

東日本の人は「アカアシオオアオってわざわざ狙いに行くような虫なの?」と思われるかもしれないが、九州ではごくごく限られた地域にしかおらず、個体数も少ないようなのだ。東日本に生まれてよかったと心の底から思った瞬間だった。


まあそんなこんなで採集地に到着。


九州オオズさんはまずここにトラップを仕掛けるらしく、ぼくはテキトーに虫を探した。
まあ、何も採れなかった。

そしてまたしても移動。今度はクヌギの木にバナナトラップを仕掛けながら、ナイターをする場所に着いた。


明るいうちにオニユミアシがついていそうな木に目星をつけながら、ナイターのセッティングをした。



良い時間になったところで、ライトオン。さあ、るへっせんす、飛んで来い。





















何も来ないんですけど(泣)

るへっせんすが飛んで来る時間帯があっけなく終わり、夜見回りにシフトする。

カモシカのように、かろやかに山の斜面を上り下りしながら虫を探す。

マイマイカブリDamaster blaptoides。こいつは多い。交換要員として非常に優秀なので採れるだけ採っておく。九州のマイマイカブリは、樹液を食うでもなく樹幹にべちゃっと張り付いていることがほとんど。


みんなの憧れ、オオスミヒゲナガカミキリDolichoprosopus sameshimai。いっぱい採れるし実は普通種なのかもしれないね。


まあここまでは採れて当たり前。問題はオニユミアシ。何時間探しても影も形もない。
ない、採れない、見つからない。3ないゴミダマだ。


夜見回りを1回中断して、ナイター現場に戻る。白布の前にいる九州オオズさんに何か飛んできましたかと声をかけるが、どうも良くないらしい。オオスミヒゲナガすら来ないとか。気温が低いから、なのかもしれない。よく分からない。


どれ、白布に来た虫をぼくもチェックするかと思い、虫を1頭ずつ見ていく。


なるほど、こりゃダメだ、たはは……。


ふと、白布から5メートルくらい離れたところにある、大きな立ち枯れを見上げた。そういえばこの木は怪しいな、と思いながら……。

なんと、木の高いところに、明らかにオニユミアシのような黒い影を見つけた。


いやあこれは来たでしょう。絶対、必ずオニユミアシだ。もう採れちゃったよ、うへへ、へへへ。

ニヤけながら網を伸ばす。が、ぼくの網では届かない。そういえば某ハチ屋さんに網を貸して壊されて、最大まで伸ばすことができなくなっていたんだ。大隅から恨みの念を飛ばす。あとでまわらない寿司をおごってくれれば許しますよ。


九州オオズさんに無理を言って網を貸してもらい、再度挑戦。

お、今度は届いた!網を下からあてがって、影を思い切りつつく。






















すかっ










んん????




















すかっすかっ









網は影の上をすべるばかりで、手ごたえが全く無かった。そして何より、黒い影はピクリとも動かない。虫だったら動くはずである。


黒い影はただの染みでした。


はあ……。まじか……。

もはや腹いせというか八つ当たりというか、ただの染みをガンガン突いてやった。
























おい、ズレたよこの染み。網でぐいと押したらズレたよ。


やっぱりこれは染みじゃねえ!オニユミアシだ!!!……だったらいいな。

九州オオズさんに土下座する勢いでお願いし、下に網をあてがってもらい、ぼくが例の染み?をロッドでガンガン突いてやる作戦に出た。

せいや!落ちろ!と思いながらロッドでガンと突く。


染みはあっけなく網に落ちた。

九州オオズさんが網の中を確認し、オニユミアシかな〜?と、ほいと手渡してきた。































うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!1111



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


あ、あ、あ……採れてしまった……しかもオスだ……それにデカい……こいつはやばい……もう死んでもいいかも……。

九州オオズさんから、手が震えとるよ!と笑われた。いやあだって仕方ないじゃないですか。デカいオニユミアシを採ることを、学部1年の頃からずっとずっと毎日毎日願っていたんですから。

それにしても、こいつはつかむ力がかなり強い。ただのユミアシとは色々な意味で別格だ。


白布にくっつけてみた。かなりカッコよい。


興奮冷めやらぬまま、また夜見回りに繰り出した。今度はメスでしょ!1ペア採ってやるぞ!


またオオスミヒゲナガ。夜見回りにも力が入っているのか、次々と見つかる。


少し歩いたところで、頭上2メートルくらいの高さの枝にオニユミアシがくっついているのが見えた。

形がはっきりと見えているので見間違えるはずがない。網にあてがって、落とした。
























おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

今度はメスじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!



いひひ、オニユミアシ1ペアを採集してしまった。初日で。これは後が怖いですな〜。

その後探してもオオスミヒゲナガしか見つからず、ヘッドライトの電池残量がなくなったので夜見回りは終了とした。


白布に来ていたミヤマクワガタの雌雄モザイク。ウソです。

結局この日は、ライトにはオオスミヒゲナガは1頭も来ず。ぼくが夜見回りでオオスミヒゲナガを見つけた分が全てとなってしまった。ライトに頼らずともオオスミヒゲナガは採れるんだな〜と思った。メスばっかりだけど。


さすがに早朝前まで歩き通しだとつらい。テントの中に寝転がったら、すぐ寝てしまった。