Take me higher, take me to heaven 中編II
3/4.
今日をもってキャメロンハイランドに別れを告げ,これからケニール湖を中心とする東部低標高地域に採集地を移す.
なぜケニール湖などというマイナー地域を選んだかというと,ズバリ,某先生が環境が良いとおっしゃっていたからだ.そういう話を小耳に挟んだのである.
これは行くしかあるまい.
さらば,キャメロンハイランド!乾燥しててクソだったけどな
さて,どの街で宿を取るかだが……地図と小一時間にらめっこした結果,マレー半島のど真ん中あたりにあるグア・ムサンという街にした.
ケニール湖まではちょっと距離があるものの,街のすぐ隣がタマン・ネガラ国立公園であり,この周辺でも採集が楽しめるものと踏んだからだ.
この選択が果たして吉と出るか凶と出るか.見物である.
過酷な採集(そのわりには成果がショボいが)でだいぶ体力を消耗したため,たっぷりと寝て午前10時頃にチェックアウトを行い,東に向かってただただ車を走らせた.
でも,なんだか東に行くにつれてどんどん熱帯雨林がプランテーションに変わっていくぞ……
やがて道路は完全にプランテーションの海を突き進む形になり,運転に飽き飽きしてきた頃,急に左側に土場が現れた!
ちょっとストーーーーップ.
同行者に「ごめん,ちょっとあそこ見てきていい?断ったらどうなるか分かるね?」と断りを入れ,土場に降り立つ.
ふーむふむ,完全に土場ですな.
何かいるかな〜と木材に顔を近づけようとしたところ,背後から「ブィィ〜〜〜〜ン」とでかい甲虫がぼくを追い越していった.
あっ,まてまて〜〜〜!!逃がすかゴラァ!!!!!
華麗なネットさばきで捕らえた.
ふ〜〜むふむ,これは何というか実に熱帯って感じのタマムシでございますね.
よく見ると木材にもタマムシがいっぱい飛び交っているではないか.
これも何ともない.ヒョイとネットに入れる.
絶妙にダサいなあ.
しかもこいつ,よく見たらそこそこいるようであった.最低限の数をつまみつつもっと見回ることにする.
とその時,さっきのよりもっとデカイ甲虫が材の近くをふよふよ飛んでいるではないか.
これは重量級やないか〜〜〜い!!!!
と叫びながらネットを振る.入った入った,どれどれ……
ううむ,デ,デカイ……こんなデカイタマムシは採ったことないぞ.
どうやらオオハビロタマムシCatoxantha opulenta opulentaという種で,割と普通らしい.
なんと,この土場はタマムシ天国だったのだ!!!
もっと採集するぜ〜〜〜!!!といきたいところだが,あいにく宿が決まっていない.今日の夜と明日以降通い詰めることを誓い,グア・ムサンに車を走らせた.
〜〜〜〜〜
無事グア・ムサンに到着し,なんとか宿を取ることもできた.実は,この街に宿があるかどうか分からなかったので最後まで不安だったが…….
なんとこの街,KFCやセブンイレブンまである.思った以上に過ごしやすく,正解だったかもしれない.と,この時は思った.
そして宿の裏のきったないメシ屋でナシ・ゴレンをダダッとかき込み,ナイターセットをかついでさっきの土場に逆戻りじゃ〜〜〜〜.そう,さっきの土場で堂々とナイターをすることにしたのだ.
はふうはふう,なんとか日暮れまでに土場に到着したぞ.さあ,点灯だ!
(写真がないのでこれは別の日のナイター風景です)
しかし期待とは裏腹にゼンゼン虫が飛んでこない.これは困った.
まあしかし問題ないのである.ここでナイターをする本当の目的は,じっくりと夜の土場を見回ることにあるのだから.
ふふっ,策士!
ということで材の一本一本をドキドキしながら見回る.
まず目についたのはコレである.日本のムネヒダミヤマカミキリのそっくりさんか,あるいはそのもの.
最初は嬉しかったが,その後あまりにもいっぱいいすぎて目が回る.
採れる時に採る!が信条なのでちゃんと採りますよ.
しかし,カミキリはこいつばっかりだなあ〜〜とやっぱり飽きてきた頃,別のカミキリがチョイと材にいた.
!!これ,フタツメイエじゃん!!!!
そう,フタツメイエカミキリGnatholea biseburata Mitono,1939である.
エリトラの上部に白紋が1対出ているので日本にいるものと同じかどうかは知らないが,フタツメイエそのものに見える.
基本的にイエカミキリ属Gnatholeaは珍品揃いなので,これは嬉しい!フタツメイエはその珍品揃いの中で一番採りやすいとか言ってはいけない
徹底的に材を見回ると少ないながらも追加でき,またゴマフ系やよくわからんカミキリも採れた.
この土場はカミキリだけなのか?と思われたかもしれないが,そうではない.この土場は今回一番の当たりであったと言っても過言ではないほど虫がいたのである.
まずはちょくちょくいるこのユミアシPromethis sp.
海外のユミアシは普通種のものでさえも少し環境にうるさく,ちょっとクセがあるのだ.日本のタダユミアシのようにどこにでもいるものは案外少ない.
採れると「あぁ,ここは環境が悪くないんだな」と思ってちょっと嬉しくなる.
この時も「あぁ,環境が悪くないんだな」と思って勝手に嬉しくなっていたが,宿に帰りソーティングするとどうやら少なくとも4種ほど混じっていた様子…….
日本では有り得ない現象だ.マレー,すごすぎる.
他,様々なゴミダマが採れた.
いるのはカミキリやゴミダマだけではない.
ミツギリゾウ.個人的にミツギリゾウはどうしてもちょっといい虫の称号をあげたくなる.自分に採れるものは普通種ばっかりだが…….
そんなミツギリゾウだが,なんとここでは5〜6種ほどが無数にうごめいており,まさに魔境であった.もちろん全部採る.奇声をあげそうになりながら.
また,材を見ていると時折宵闇に似つかわしくないキラキラしたものがシュッ,シュッ,と材を走り回っているのが分かった.
正体はアトバゴミムシの仲間(Catascopus sp.)であった.写真がヘタで申し訳ないが,実物は綺麗な青緑色である.
日本のCatascopusはキンヘリアトバゴミムシが有名だが,熱帯ともなるとこのように全身ギラギラしたものが多くなる.これは非常に良い虫である.
ゴミムシは他にクチキゴミムシMorion sp.や紫色の派手なアトキリゴミムシが得られた.
ちなみに日本のクチキゴミムシはド珍だが熱帯では結構普通らしい.それでも1頭しか得られなかったが.
そろそろライトに虫が来ている頃かな?と戻ると,なんか白布にデカいのが……
で,でけぇ〜〜〜!イチジクカミキリBatocera rubus Linnaeus,1758である.
いかにもな熱帯カラーだが,実は日本にも移入している.でも初見!カッコいい!
あとは写真に撮らなかったが,巨大なフタツメイエ♂も来ていた.この手のカミキリは大型になればマンディブルが発達するのでそれはもう格好良い.
こうして,怒涛の移動日が終了した…….
3/5.
ふうっ.目が覚める.よし,今日はあの土場で心ゆくまで採集することにするぞ.ということで,朝イチで土場に置いてってもらい一日中網を振ることにした.
しかしまあこんな早くから気合いを入れてもしょうがない.日本の場合では,土場に集まる虫は午後に多い.ゆったりと準備運動気味に土場を見回ることに.
でもいるモノはいるモノである.はいっ,クモゾウムシの仲間である.とてもすばしっこく,近寄っただけで飛んで逃げるので網がないと採集は難しい.
あと昨日のダサいタマムシ.もういっぱいいるってものではなく,材に近寄っただけで,うんちにむらがっていたハエがいっせいに飛び立つようにぶんぶん飛び回る.
この表現が我ながら気に入ったため,このタマムシをずっとウンコタマムシと呼んでいた.
あとは日本のものと大差ないような地味なムツボシタマムシの仲間Chrysobothris sp.の3種くらいしかいない.
この3つはやたら多い.3種の神器だろうか.
まあまだ午前中なので悶々していても仕方がない.こまめに水分をとりながらゆっくり土場を見回る.
12時を過ぎていい加減この3種に飽きてきた頃,オオハビロタマムシがぶんぶん飛び始めた.
結構多いが,こんなデカイタマムシをネットインするのは掛け値なしに楽しいものだ.
オオハビロに比べるとこいつは若干少ないようだ.
タマムシばかり追い掛けていても仕方ないので,材にも気を配っていると,ちっこいトラカミキリがシャカシャカ走り回っているのが分かった.
う〜〜ん,地味…….
よく見てみるとそこそこの個体数がいるようであった.
このトラカミキリをつまみながら材を見回っていると,ふわふわ〜っと飛ぶ赤い影が.
日本にいない感じのカミキリだけど,もうちょっと頑張れないかなぁ?
いや,ちょっと贅沢すぎたかもしれない.まぁまぁ嬉しい.
う〜〜〜む,日中のこの土場は派手なタマムシ2種に圧倒されただけで,実は大したことないかも…….
そんな感じのことを思っていると,材にデカイハチがてくてくと歩いている……いや,カミキリだ!
めちゃめちゃ格好いいトラカミキリだ!これは嬉しいぞ.
あとは……
う〜〜〜〜〜〜ん……まあ嬉しいっちゃ嬉しいけど…….
Batoceraって普通種と珍品の二極化が激しいと思ってたけど,こいつはダメなほうのやつなのね…….
雨が降ればまた違うのかもしれないけど,こんな感じだと明日からはもう来なくていいかな〜……と思っていると,ある1頭のウンコタマムシに目が行った.
いや……あいつは違うな……ウンコタマじゃないな……
!なんかめちゃカッコイイムツボシタマムシの仲間だ!!!
ちょっと過呼吸気味にネットを被せる.
あ,逃げられた!!!!
あいつだけはちょっと採りたいぞ.止まっていた材木がホストである可能性が高いので,丹念に見ていく.
あ,またいた.
……が,目が合った瞬間ピュンとどっかに飛んで行ってしまった.
う〜〜〜ん,どうも難しい.でも,こいつはきっとまた戻ってくるだろう.
5分くらいぶらぶらしてからまたこの材をチェックすることにしよう.
……5分後,また丹念に見てい……いた!!!!!
3度目の正直!!入れ〜〜〜〜〜!!!!!
入った〜〜〜〜〜〜!!!!!!
写真写りがあまりよろしくないが,これ,あまりにも格好良い.日本のムツボシタマの上位互換と言ってもいい.
……というか,雰囲気があまりにも違うので別物の気がしてくる…….
でもおそらく日本のムツボシタマムシと同属で,たぶんC. ellyptica Deyrolle, 1864という種.
この後しばらく粘ったが良いモノは飛んでこなかった.ということでメシを食べてからナイターを行う場所まで移動することにした.
〜〜〜〜〜
今日は土場ではなく,林内環境でやることにした.
しかし,甲虫がほとんど飛んでこなかった.低地は乾燥が激しいためだろうか?
仕方がないのでその辺を見回ることにした.
でも,このオオキノコくらいしかいなかったのであった…….チーン
ナイターのほうに戻ると何かデカイのがもがいている.
なんと正真正銘のテイオウゼミだった(宿にて撮影).クソデカくてビビる.
結局ナイターにはOmorgus sp.(オオコブスジコガネ属の仲間)が来たくらいで,他にめぼしいものはなかった.
ナイター終了後昨日の土場に行ったが,びっくりするくらい何もいなかった.
3/6.
この日は土場以外のところも見回ろうということでケニール湖周辺まで足を伸ばすことにした.
さっそくグア・ムサンを出発し,途中にいい環境がないか気を配りながら車を走らせる.
…….
………….
…………………….
走れども走れどもプランテーションの海なんですが.
これは困ったぞ.
結局走ること2,3時間,ようやく熱帯雨林が姿を現してきた.
つまるところ街からろくに採集できる場所まで少なくとも2,3時間はかかるということである.
宿を取る場所ミスったかなぁ…….
さらに進んでいくと,また土場が. 多いな.
まあ,つまりそれだけ伐採が行われているということでもある.5年10年も経ったら,今回駄物扱いされている虫も採りにくくなるのだろうか.
とりあえず様子を見ることにする.
ロケーションは文句なしのように見える.
これは初見のタマムシ.
ネット上でよく見るカミキリである.実は同所的に全く同じ色彩のベニボタルが得られるので擬態じゃないかと思っている.
あとはウンコタマムシくらいでめぼしいモノはいなかった.
なんかパッとしないなあ…….
正直この前の土場のほうが虫は多い.
この土場を後にし,さらにポイント開拓を進めた.
さらに車を走らせると,林道を発見した.
ここはパッサパサで甲虫はダメダメだったが,チョウはそこそこ飛ぶようなのでほった君が喜んでいた.
この林道をチェックし,さらにポイント開拓に励んだが結果はあまり芳しくなかった.
ただ熱帯雨林に突っ込む道なんて作る価値があまりないから,なかなか熱帯雨林の中に入れないのである.
ウロウロしているうちに良い時間になってきたので,さっきの林道でナイターをした.
びっくりするくらい何も飛んでこなかった.
3/7.
この日は日中は昨日見つけた土場で採集することにした.
こんなところです.
……他に良い場所がなかったのでここにしたが,案の定今まで採ったことのあるヤツしか採れなかった.
一方,ほった君はイナズマチョウの仲間の幼虫を見つけて狂喜していた.
海外でこういうのを見つけるのはかなり難しいと思う.
この後メシを食べたらいい時間になったのでナイターをした.
ライトに飛んでくる虫はコガネ系が多かったが,その辺を見回りするとゴミダマやオオキノコが多数得られた.
え?写真?ないけど.
後編へ続く.