ごみだまろぐ

甲虫屋のネガティブ日記

わたし、もとの世界に帰りたくないわ

5/3 - 5/6の間、同回生のりっちゃん(雑甲)と後輩のカオカクシゾウ(ゾウムシ)と採集に行ってきた。


一緒に行ってきたのであるが、彼ら二人と私の行動計画は異なっていた。

彼らは、5/3に高速バスで鹿児島まで移動し、それからフェリーで屋久島まで行き、到着が5/4の朝だったのに対し、私は5/2の深夜にバイクで鹿児島まで走り、それから朝のフェリーで屋久島まで行き、到着が5/3の昼間だった。


なぜ行動を一緒にしなかったかと言うと、理由は2つあった。

一つは時間を無駄にしたくなかったからである。
休日は貴重だ。だからこそ、移動で1日潰れてしまうのが我慢ならなかった。

もう一つは最後に言う。


と言う訳で、私とバイクの、長い旅が幕を開けた。


5/2の深夜に、鹿児島へ向けて10kgほどの荷物と長竿を背負い高速道路を走った。
途中、風圧で吹き飛ばされそうになり悲鳴を上げたり、サービスエリアで食べた熊本ラーメンのおいしさに感動したりしながら、最終的に鹿児島ICに着いたのは5/3の午前6時過ぎだった。
採集はまだだというのにかなり疲れてしまった。

ここからフェリーに乗る……のだが、ここでひとつ問題が生じた。
フェリーに載せる車両は駐車場のゲートの自動発券機のボタンを押して出てきた券を取り、車を置いておくのだが、自分がバイクに乗ってゲートに行って、ボタンを押しても券が出てこなかったのだ。

ハァ!?ぶっ壊れてるのか!?とヘルメットの中で悪態をつきながらボタンを連打したが、いつまで経っても出なかった。
しかも後ろには順番待ちの車の行列ができ始めた……。

ふっ、ここのゲートは壊れてるから車は入れないぜ……とつぶやき、後ろの車に順番にゆずった。


券、出たし。なんなんだ。


その後自分も並んだが、自分が行っても相変わらず券が出なかった。どうやら乗用車しか反応しないようだ。

仕方がないのでバイクを押して駐車場に入り、乗船手続きをした。係員に券の提示を求められなかったので、そもそもココはバイクを押して入るのが正しいらしかった。

このフェリーに乗った。

フェリーに乗り、客室にごろんと寝そべり睡眠に入ろうとしたが、そこで隣に小学生くらいの女の子が陣取ったのに気付いた。

いつもなら(女の子だ。フヒヒw)なんて思うのだろうが、この時は夜通しの運転で疲れていたので構わず寝た。※一応弁解しておきますがそういう趣味ではありません


そんなことがあり、起きたらフェリーは屋久島に着いていた。昼過ぎだったので、途中で寄ったスーパー「わくわくらんど」(ここはホームセンターも兼ねていて素晴らしかった)で昼ご飯を食べ、採集の拠点となるA地点へ向かった。

ここはとても環境が良い照葉樹林で、さまざまな昆虫が期待できそうだった。
まずは頼まれていたイエローパントラップ(YPT)と糞虫トラップを仕掛けようと思ったのだが……。

人糞を発見した。

ブツのそばにティッシュペーパーの残骸が落ちていたので人糞だと判断したが……ともかく、糞虫をたくさん採りたかったので、渡りに船とはまさにこのことだった。しかし、今思い返してみると、林内で人糞を見つけて喜色満面の男子大学生(21)の絵はなかなかキツいものがあるな。

それはともかく、屋久島の糞虫といえばオオセンチコガネ屋久島亜種、通称ヤクルリセンチコガネである。
全身が瑠璃色に輝いている素晴らしい虫だ。大きいので見栄えがいい。

ここで採れているとの情報を事前にいただいたので期待が高まる。近くに落ちていた木の枝でブツをどかすと、大量のエンマコガネがわらわらと出てきた。

ヤクルリセンチではないが、かなり嬉しかった。掘れども掘れども出てきた。

結局これで採集できたのはカドマルエンマコガネOnthophagus lenzii、フトカドエンマコガネO. fodiens、クロマルエンマコガネO. aterなど普通種のオンパレードだったがテンションが高まった。

フトカドエンマコガネ。

ただ、糞虫を探していると青く輝く甲虫の破片らしきものが出てきた。ヤクルリセンチのものだろうか……。


その後はトラップを仕掛けた。糞虫トラップを仕掛けたのだが、トイレをしたわけでも、牛糞や自分のブツを持ち込んだわけでもない。

どうしたのかと言うと、噂のコイツを持ってきたのだ。

臭豆腐

こやつは立派な「食べ物」だが途轍もなく臭く、そのにおいにつられてなんと糞虫が集まるらしい。

最初はうんちの臭いがするものだと思っていたが、実際に嗅いでみると、うんちなんてかわいいものではなく油膜が張ったドブの強い臭いがした。


くさいくさいとひとりで悲鳴を上げながらトラップを仕掛けると、直後にハエが10頭以上集まってきた。これは本当に食べ物なんだろうか?

そして数分後……。

ホントに糞虫が来た。すごい。

普通種なのが残念だが、確かに効果はあるようだ。ヤクルリセンチ来てくれ〜と念をかけた。


まだ日没まで少し時間があったのでビーティングで時間を潰した。
甲虫の落ちはあまりよくなかったが、地面に接したスギの落ち枝を叩いたらこんなものが落ちてきた。

ヤクツヤキノコゴミムシダマシScaphidema aikoae

屋久島特産種の美しいゴミムシダマシで、今回ぜひ採りたかったゴミムシダマシであった。
とてもうれしい。

その後ご飯を買いに行ったが、途中でとてもいい土場を見つけた。

しかし、なーーーーーーーーにもいなかった。なぜだ。


そして日没を迎え、持ち込んだHIDライトでナイターをした。

しかし飛んで来るのはカンショコガネの仲間やクロコガネの仲間、ガがほとんどで私としてはあまりおもしろくなかった。カンショコガネなんていっぱい採ったからなぁ……と、この時は思ってい

ライトに来たガ。


ライトを見ていても楽しくないので、お楽しみの夜見回りをすることにした。
夜見回りとは、夜間にヘッドライトや懐中電灯を装備して立ち枯れや朽ち木などを見回る採集のことで、これがゴミムシダマシ採集に効果てきめんなのだ。ただしある程度の危険は付き纏うが。

私は大学に入ってからこの採集法を知ったので、もし、このブログを読んでいる方で夜見回りをしたことがない人がいたら、ぜひやってみてほしい。


しかし、今回のここでの夜見回りの成果は微妙だった。クチキムシの仲間Allecula sp.や、サツマヒサゴゴミムシダマシParamisolampidius kagoshimensisなどを採集するにとどまった。

あとコイツが非常に多かった。


ここでの採集はおしまいにして、その後は大本命のB地点に向かった。

B地点は標高がかなり高く、何を隠そう私が去年遭難しかけた場所である。

屋久島の高標高にはさまざまなおもしろいゴミムシダマシが棲息していて、その中のイリエヒサゴゴミムシダマシMisolampidius irieiは去年からの目標だった。

なぜこの種にこだわるのかと言うと、この種を自己採集すれば九州のヒサゴゴミムシダマシMisolampidiusの全種を採集したことになるからだ。

そう、あとこの種だけなのだ。ただこの種が少々くせもので、屋久島の高所に分布しているが個体数は少ないのである。去年は見事に惨敗をくらってしまった。
そして今回も実は時期があやしい。ううむ……。

そんな理由で必死にB地点までやってきた。余談だがB地点までの道は明らかに夜走ることを想定されていない

街灯はおろか、普通は道路のわきにたくさん立っている反射板がほとんどない。何が言いたいかというと、真っ暗で夜走るのが怖い。でもこの道は夜しか走ったことがないんだよな……。

去年のB地点は土砂降りだったが、今回は雨は降っていなかった。
期待できるぞ〜と思いながら、採集をはじめようとした、その時!!

道のわきのしょうもない枝にヤクヒサゴゴミムシダマシMisolampidius yakushimanusがとまっているではないか!!

手ブレひどすぎて何がなんだか分からないけど、誰が何と言おうとヤクヒサゴです。

ヤクヒサゴはB地点では普通種だが、去年は1頭しか採れなかった。それが、こんなつまらないところにいるなんて……。実は時期が良いんではないか?

そしてB地点で夜見回りをはじめた。ところが思ったよりゴミダマは多くなかった。

ヤクヒサゴはポツポツと採れるが多くはない。そしてイリエはいない。
なぜだ?考えた結果、やがてひとつの結論が導かれた。

やっぱり時期が悪いんだ。

イリエを採った人のタトウを見せてもらったことがあるが、その時はイリエの他に大量のヤクヒサゴと、そしてオニエグリゴミムシダマシUloma kondoiがいたのだ。

オニエグリは前回採ったが、今回は見ていない。ヤクヒサゴとオニエグリが同時に現れる時期が、イリエの時期なんだ。そんなことを思いついた。


思いついた瞬間、オニエグリが目の前に現れた。

(ショックにつき写真はありません)


わかったわかった、ぼくが悪かった、素直に認めよう。
ぼくの探し方が悪いんだ。目が節穴なんだ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
また今度探しに来ます。もう帰ります、さようなら。

そんなことが頭の中にだーーっと流れ、気が付くと私は引き返していた。

はあーーーっ、またダメだった。何が悪いんだろうか。九州山地で修業するか……。

何度屋久島に来れば……ん?





目の前のヤクスギの幹をちょこちょこ歩いている、ゴミムシダマシ





ヤクヒサゴにしては、やけに小さく、何より体型が異なっている。





考える前に手が伸びた。















イリエヒサゴだあああああああああああああああああ!!!!


よかった、よかった、やった、やったんだ。

思わず目頭が熱くなった。


ようやく九州のヒサゴの最後の種、イリエヒサゴゴミムシダマシを採集することができた。

これで、九州のヒサゴは全種採集することができた。大学1年の頃からの夢だった。
何度、この瞬間を望んだだろうか。

達成感で胸がいっぱいになり、しばらく歩くことができなかった。


しばらくの沈黙の後、よっしゃあああああ!!!と山の中で叫んだ。


これでもう肩の荷がだいぶ下りた。あとはヒメエグリユミアシゴミムシダマシPromethis persimilisでも探そうかな〜と思いながら歩いていると……

このつつましく、かわいらしく、控えめだが自己主張が激しいおしりは……

イリエだ!!!


追加できてしまった。おもわずにやにやと気色悪い笑みをうかべてしまう。


やがて、B地点の入り口まで完全に戻ってきてしまった。これで今日の採集はおわりとなってしまった。

採れない種はたくさんいたが、でも、それでも、十分な成果ではないだろうか。


満足感を胸に、宿に戻り寝た。

(2日目に続く)