星の数の國語の中から 一つ何かを探してる(後編)
4/1.
エイプリルフールだ.
嘘みたいな虫を採りたい.
まぁ結局採れるんですけどね,嘘みたいなオチ付きで.
まずは昨日格好いいRhopalumが採れたアカメガシワへ.
・・・・
と、なにやらひめのちゃんがやってきた.どうやらこのアカメガシワに興味があるらしい.
まぁやりたいならやれば,と静観する姿勢を見せたところ,彼はアカメガシワのド正面にドカーン!!と立って待ち伏せしている.
あのなぁ.
君はうまいメシの前にゴジラが立っててもそのメシを食いに行くんか?みたいなことを言ったが聞いてんだか聞いてないんだか分からん表情.
意外とムシって人を見ていて,人が通り道の真ん前で張ってたり待ち伏せしてたりすると結構目に見えて来なくなるんだよね.
だからぼくは待ち伏せするときはちょっと離れてしゃがんで待つ.寝転んでもいいくらいだ.
どのみちほかの人からはサボってるように見えてるんだろうけど.今回もそう見えてたのかもな.
今回は案の定来なかったみたいで,ひめのちゃんが諦めて離れたとたんRhopalumがチラホラ.ほら言わんこっちゃない.
ただ全体的に昨日より飛来数が少ない.近くのやつが寄せられてるだけなのか?
新顔のハチ.カワリイスカバチの一種.
お昼をまわったあたりで材のもとへ.ヤエヤマムネマダラトラとなんだかでかいゴマダラコクヌスト的なものを採る.
あとPiyuma.
午後は適当に車を走らせ,いい場所を探る.
おっなんか森林歩道があるらしいぞ,入ってみよか.
力(リキ)はそこそこかもしれないな.
なんとかっていうチョウ.一説によれば、マダラに擬態してるアゲハ.でも知らない.
ハチに擬態しているやつら.なんか樹液に寄ってるっぽいが,何もないとこを飛んでたりもする.
Xylocopa rufipesというクマバチ.結構好きなハチだ.
飛ぶぞ!
きままにスイープするが,ハチはまあそこそこのようだ.
ほしいハチが採れるとしたらここだろうな,よし,毎日通おう.
そうこうしてるうちに夜.
いつも場所でナイター.
バカなプログラムみたいに同じ場所でしかやらないので嫌味のひとつでもくれてやろうかと思ったが,どうやら東部しょっぱなのナイターで新属新種のガが飛来したかららしい.
それが本当に新属なのかはさておき(そもそも彼がどれくらい詳しいのか知らない)、それなら仕方ないなとほっておく.
余談だけど,T君とひめのちゃんが「あの新属のガの名前何にする?」とずっと盛り上がっていて,ぼくはずっと呆れっぱなしだった.採集を始めたての時期は,見たことないもの=新種 という時期があるのは尤もだが,彼らはもう大学4年だ.なんだか聞いてるこっちが恥ずかしいよ.
やはりというかなんというか既知のものだったようです
ぼくは夜の森へ.昨日よりはムシが多かったかな,という気がした.
Bradymerusの一種だと思う.ボロい木に湧く.
とてもコメダマが多かった.
ヒラタケシキスイ(だっけ?)
まあ大したものは採れなかった.
で,採集は切り上げ.珍しくT君が
「いいモノ採れましたか」
と訊いてきたので,
「いや、大したものは採れなかったよ」
と返したら,
「じゃあ何も採れなかったんですね!」
と言ってきた.バカにしてんのか?
4/2.
起床即アカメガシワに直行だ.
ナニコレ何もいないんですけど
どうしてこうなった
午後は森林歩道へ.
心を殺してひたすらスイープすると,はちゃめちゃ格好いいジガバチモドキTrypoxylonが.
ウッキウキで本物のひめのちゃん(もとい、こめさん)に画像送ると「マダラじゃない?海外の個体群は腹部が赤くなる個体群があるらしいよ」との返信が.
はっきり言っていいですか?萎えました.
・・・まあこんなこともあったんですがね.
必死にスイープしてるといきなり自分の正面に「私を採って!!!!!!」と言わんばかりにナニカが突撃してきた.
反射的に採りました.
ひょっwwwwwなにこの格好いいツチスガリwwwwww
タネあかしをすれば実はこれも日本にいるやつだったんだけど,台湾の記録はないらしい.
やったね未記録のハチだよ!まあ諸般の事情で記録が公表されることはないでしょう.
諸般の事情め,許さん.
ヒマな人は名前をあててみてね!
そうして夜になり,ナイターへ.
T君が「今日は林内でナイターしたい!」と言っていたので林内でやった.と彼は思っているだろう.
なんでこんな婉曲的な言い方なのかというと、あまりに場所選びがヘタクソすぎてもはや林内とは言えない環境だったから.
呆れてほとんど何も言わなかったけど,まあ,もうちょっと経験積みなさいな.
ひとまずそのへんをしばき倒す.
と,いきなりいいのが落ちてきた.
ぬほっwwヒメキマワリですなwwww(マジで声出た)
おそらくPlamius quadrinotatusという種だと思うが,似てるのがもう一種いてそっちかもしれない...
Plaumiusなんて八重山ではクソザコじゃん,という指摘が入りそうだけど,
悪いかよ!!!!!!!!!!今まで採ったことなくて!!!!!!!!!!!
まぁ八重山のはお世辞にもかっこいいとは言えんからね.台湾のすき.
そして近くの枝には!
な,なんだこのTetragonomenesは……
写真は全然だけど、なんと全身青緑である.
少なくとも台湾ではこんなのは記録がない,未記載だって十分あり得る.
正直手が震えた……
気分を良くしてズカズカ奥まで入る.
良さげだが昨日は何もいなかった木を見ると,なんと結構ムシがいるではないか.
このマンマルコガネを筆頭に,ホソカタがどさどさ落ちてきた.
残念なのは日本にもいるやつがほとんどだったことだが、1頭だけ台湾未記録くさいのも落ちてきた.
本当に記録ないなら出そう・・・
これがこの林道の本気かあ,とため息が出た.
あとなんかでかいエビが落ちてた.
4/3.ハッピーバースデーぼく!
去年おととしと誕生日は台湾で迎えたが,そのときはなんだかんだ祝ってもらえた.
しかし今年はおめでとうの一言もなし.
こいつらとは二度と行かねー.
さて,いつものルーチンで採集に繰り出すが,
むしがとれない
むしがとれない
そもそも発生が初期の初期で、数少ない出たやつを根こそぎ採っている疑惑が浮上してきた.
あまり信じられないが.
というわけで、新しい場所をさがす.
てきとーな山に入ったらガチガチの登山道、しかもやぶまみれ.
ビクビクしながら藪漕ぎするがめぼしいものはなし.格好いいカッコウムシに逃げられたことは……ナカッタコトニシヨウ.
そして夜になり,ナイターへ……と行きたいところだが,今日は夜見回りをガチガチのがちんこでいきたかったのでナイターには不参加.
ひめのちゃんとT君がナイターから帰ってきたのと入れ替わって出発.
海外での単独行動は避けるべきだが,遅ければ夜明けと共に帰ってくるつもりだったので一人で行くことにした.
まずはガチ登山道のある山へ.
ここは材だけは結構あり,いろいろ採れると思ったのだ.現地に着き,じろじろと木を眺めていく.
テンダマの集団.ほぼ蛹.
しかし予想に反して虫がいない.
萎えながら藪漕ぎをしていると目の前をアマガサが横切った.
ちょっと,一人のときはまじで洒落にならないって!
ここ数年でフィールドワーカーの日本人がかまれて助かったという出来事があったが,あれはかなり幸運だったと考えるべきで,基本的にこの手のヘビにかまれたらまず死ぬと思って間違いない.
アマガサは何気に個体数が多いので,大人しく撤退した.
2か所目.ツヤアリバチ力(リキ)が高い森林歩道.
ここは結構虫がいた.と言ってもホソカタがほとんどだったが…….
クロサワオオホソカタの近縁種か,あるいはそのもの.
PlatydemaとPentaphyllusがアホほどついていた木.
言うまでもなくどちらも普通種.でもPentaphyllusは何気に初見.
あとかっこいいアトキリゴミムシがいた.
3か所目.なんかいろいろ採れた林道.
ここは大したものがいなかったが,道端にキクイムシに食い散らかされた材が転がっていたのでそれ目当て.
ルイスホソカタがついていた.残念ながらスプレーを忘れたので,明日あたりシューしてやる.
他にコマゴマしたものを採って宿に帰る.4時くらいでちょっと心配された.すまん.
4/4.
さすがに午前中は寝ていた.ひめのちゃんによるとカラカラで虫が全くいなかったらしい.
晴れが続いているといってもたった数日だし,昨日の夜はちょっと雨が降ったし,そんな馬鹿なことがあるかと思った.
虫が採れないのをすぐ環境のせいにするのはやめたほうがいい.まぁそれで精神衛生が保たれるなら別に止めはしないけど…….
午後はじめじめしている林道へ(最初に行ったとこ).そんなに乾燥がひどいなら湿気が多い場所に行けばいい.
ひめのちゃんは何やらクマバチの一種X. collarisの巣にご執心のようで,もしかしてあの赤いのが採りたいの?と訊いたらそうだと言う.
じゃあ見つけたら採らずにしておこうと思い先に行く.まぁ天気はいいし,巣もいくつかあるし,ひとつはいるだろう.
ちょっと歩くと,案の定,
いました.
ひめのちゃんを呼んで,この木見てみ?と促す.
何もいないんですけど?とか抜かしやがった.
よくみろよくみろとせっつき,ようやく見つけられたようだ.
なんでも採らせてあげるのも善し悪しかもしれない.見つけられなかったら自分のものにしてしまうのも優しさ……なのかな.
肝心のハチはと言うと,まぁ……うん……
最初のほうよりはハチが採れたけど,まあ,うん.
林道での採集を切り上げ,林道周辺でドロバチを採って感情を無にしていると,藪の中からガサガサ音がする.
ネズミかな?と思ってよーーーーーーく目をこらすと,とんでもなくぶっとい長いモノが移動しているのが分かった.
タイワンスジオだ!!!!!!
その正体はぼくより長いスジオでした.これでおそらくふつうサイズ.
これには一同大興奮でした.
さて,ナイター.
なんとかミツギリ.
キイロスズメのお化け.
ヲヲキノコ……
あと無数のヒメドロと,マルガタヨツボシゴミ系の何者か.
まぁいつも通り大したものは飛んできませんでした.
ナイターを切り上げ,昨日のルイスホソカタがいた材の場所まで.
スプレーすると,穴という穴からホソカタとCorticeusがムニュムニュと生えてきた.
台湾で一番面白かった瞬間でした.
4/5.
カラカラだったという林道へ.昨日から雨の一滴も降っていないので,おそらく今日も虫が全くいないはずである.
地面をスイープすると,アリガタバチ,コツチバチ,ゴキヤセなどの普通種がごくふつうに入ってくる.
乾燥がひどくて虫がいないとはなんだったのかとひめのちゃんに文句を言うと,昨日より空気が湿っているから虫が復活したと言う.
なんだそれwww
でもいいモノは採れない……
今日もナイターをした.甲虫はしょーもねえやつばっかだったが,なぜかセイボウモドキとタマゴクロバチが来た.
奇跡みたいなナイターだった.
セイボウモドキ.青くてきれい!なお献上します.
夜は昨日の材の残りをスプレーしたような気がするが記憶が定かでない.
採集を終え,宿に帰るとひめのちゃんが
「あんまり虫が採れないし,台北に用事があるからそっちに行きたい」
と言う.
まあ気持ちは痛いほど分かる.あんまり虫が採れないのは,言い換えればぼくが虫を採らせるだけの実力がないのと同義であり,申し訳ない気持ちはある.
言いたいことはたくさんあったが,
「別に止めはしないけど,採れない時こそ頑張るものじゃないの?」
と言っておいた.これはぼくの行動原理であり,かなり親身に思って言ったつもりだが,向こうはそう真剣には受け止めてくれなかったようだ.
4/6.
ひめのちゃんは結局台北に行くようで,今日はT君と二人.
天気はピーカンで悪く無さげ.
まずはいろいろ採れる林道へ.
相変わらずアカメガシワには何も来ないが,材を見ているとPiyumaやLesticaがそこそこ飛んでいるし,材にはムネマダラトラやモモブトホソカミキリの一種Cleomenes auricollisが来ていた.
むねまだら.
どれも大した虫ではないが,虫が活発に動いているのは事実であり期待が高まる.
午後はツヤアリバチ力(リキ)森林歩道へ.
スイープしながら歩き,何気なく道端にある廃屋に注視する.
ここ,何もいねえんだよなあ……いや,よく見ると無数のハチが飛んでいるではないか!
残念ながらこの世のものではない速さで飛んでいるのでほとんど採れないが,正体はルリジガバチとベンガルルリジガバチのようだ.残念ながらどっちも日本にもいて,残念ながらどっちも普通種.
これね.
小屋の上のほうがぶんぶんウルセーなあと気になった.小屋の上には花がある.つまり,花にハチがむらがっている.
次の瞬間には抜刀して花を切り裂いていた.
でかいハナムグリ.
以上.
甲虫は以上です.
ただハチのほうは尋常でなく,ドロバチはいろんなやつが無限に入るし,ギングチもちょいちょい混じってくる.
アーヤバイ過呼吸気味になってきた
あはーとかうほーとか言いながら花を掬っていると,だんだん雲行きが怪しくなってきた.
T君が帰りましょうと言うので急いで車まで戻る.
帰路はわりとひどい雨で,その日は夜までずっと土砂降りだった.
4/7.
ひめのちゃんが戻ってきていた.
「ぼくがいない間にハチがいっぱい採れたようですね,T君から聞きましたよ」と言ってきた.うざい.
今日が採集できる最後の日だ.
正直採集を抜けたやつの面倒なんて見たくもなかったが,昨日の花の場所に連れて行ってやることにした.
が,
めっちゃ寒い
長袖のパーカーを着ていても寒い.
案の定,採集品もお寒いものでした.
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これで今回の採集は終わり.
なんかいろいろとイライラすることがあって同行者には申し訳ないと思うことが多々あった.
採集中は全然虫が採れていないと思ったが,帰って調べてみると個体数こそ少ないものの,結構いろいろなハチが採れていて全体としてはそう悪くなかったと思う.
根性論が好きなわけではないが,どんな局面でも文句を言わずひたすら虫を採るということは絶対に強みになる.
今回はそんなことを思ったのであった.
ちなみに途中で出てきた未記載くさいゴミダマはおそらく既知種の斑紋変異に過ぎないだろうという結論に至った.
泣きました.