Take me higher, take me to heaven 中編I
ぼくは一人,真っ暗なジャングルの中をヘッドライト一つでとぼとぼ歩いていた.
ふと道端のキノコが気になったのでその裏側を見ると,たくさんのゴミダマがついているではないか!!!
「あっやば写真写真……あ,落ちる落ちる!!」
急いで毒ビンへ入れて……い……く
目が覚めると車の中だった.異様にむし暑い.
夢だった.
あぁそうだ,車をぶっ壊して,その辺の道端で車中泊したんだっけ…….
3/1.
まわらない頭で状況を思い出していく.その時,車の外で見知らぬマレー人が車をどけるようジェスチャーしてきた.仕方ない,あの人に助けを求めるか.
拙い英語で車を走らせられないことを説明すると,親切にもそのマレー人は修理屋を呼んでくれて,スペアタイヤに交換してくれた.
その後,修理屋の使い走りの兄ちゃんに先導され,隣の村の修理屋に行くことができた.
そこで電話越しにレンタカー屋と修理屋とで交渉してもらい,なんとレンタカー屋がタイヤ交換代をまるまる持ってくれることに.
元はと言えば自分のクソみたいな運転が原因なのに,申し訳ない気分であった.
しかし,電話越しでの相談は大事であると思った.マレー語に堪能なら話は別だが…….
修理される車.
結局午後をまるまる潰してしまったが,同行者に謝り倒しながら一回宿がある街まで戻り,態勢を整えることにした.
街で食い物などを買い込み,すぐさま昨日行ったポイントまで戻る.安全運転で.
ポイントではうんちに集まった虫などを採集しながら過ごした.午後もいい時間だからか,昨日ほどの甲虫は見られなかった.
ほった君が採ったチョウ.ヤイロタテハAgatasa calydonia calydonia (Hewitson, 1854) という種らしい.綺麗でカッコイイ.
後からだんだん確信していったが,熱帯の虫は時間帯にいくらかシビアみたいである.特に甲虫はピークとなる時間帯があって,そこを外すとパッタリといなくなる印象を受けた.
そして時間帯は夜へ…….
そのままの場所で点灯.
つかみはなかなかいいみたいで,蛾やちっこい虫がわわっと飛んでくる.相変わらず甲虫の姿はほとんどないが…….
ライトはほったらかしにしてとりあえず道端に置いてある材を見てくることに.
で,昨日の…….こいついつものヤツだな.
昨日採ったきりなのか,なぜか虫が少ない.う〜〜ん…….
一通りその辺を見た後は,ライトの前でぽつねんと座り込むしかなかった.
ああ〜〜暇だな〜〜…….
でかいの飛んでこないかなあ…….
あ,でかいの飛んできた!!!
どうやらエドワードサンみたいだ.さんざんあたりを飛んでようやく地面に止まったが,凄まじいボロだったので採るのはやめておいた.
残念だなあと思いながらふと白布に目を戻すと,
あ,アトラスさんじゃないっすか.
御存じアトラスオオカブトである.コーカサスといいアトラスといい,でかいだけの虫は軽視されがちだが,なんというかこう三本角のカブトムシを初めて野外で見るとそれなりの感慨はあった.
でもかさ張るからもういらない笑
N田くんがクソデカイカエルを持ってきたくらいでここでの成果はこのくらい.
デカすぎるだろ……
帰り際,綺麗なハグルマヤママユを見つけた.
果たしてハグルマヤママユそのものなのだろうか…….ちなみに灯火の常連である.
この帰りにとある街灯に寄って来ていたカミキリなんぞを採り,この日は終了.採集時間の大半を潰してしまったからか,あんまりいいモノが採れなかった.
その街灯に来ていた緑色のアケビコノハ.めちゃめちゃカッコイイので採った.
3/2.
この日はかの有名な19マイルに行くことにした.オランアスリ(原住民のこと)にジャングルを案内してもらおうという魂胆である.
知らない人のために説明すると,ここは昆虫採集者が古くから訪れている村であり,捕虫網を持って入るとほとんどの村人が虫を売りつけてくる,そんな我々のような人間を食い物にしている村である.
オランアスリの村に着き,さっそく案内を頼んでみることにする.前情報で村長に話を通した方がいいとの話を聞いたので,まずはその人はどこにいるか適当な村人をつかまえて聞いてみた.
すると,
「今はチョウ採りに行ってていないよ」
とのことだった.ガ〜〜ン……無駄足じゃないか.
しかし,他のガイドをつけてくれるという.これは頼もしい.さっそく案内をお願いした.
なるほどジャングルだ.
しかしこのガイド,
とても非協力的だった.
まず虫が採りたいのでその旨を伝えると,
「No beetles! No butterflies!」
N田くんがヘビを採りたいと言っても,
「No snakes!」
うそつけ.
いねえこたねえだろ.
ほら,
いるじゃん!!!
でもこのガイド,「どうやって見つけたんだ?」みたいなことを言ってくる.どうやら非協力的なのではなくて,本当に知らない(あるいは教えたくない)らしい.
しかも思いだしたように「いつ帰るんだ?」と急かしてくる.
しかし向こうからすれば急によそ者がずかずかと入り込んでいるわけだから,「おめぇ〜使えねえなあ!」とは口が裂けても言えなかった.こちら側の総意であったことは間違いないのだが.
今思えば,あのとき100リンギット札でも握らせれば態度がガラリと変わったかもしれない.
やがて大きな川の川べりに着くと,ガイドが「ここでチョウが採れるけど,見て分かる通りNo butterfliesだ.まあ,せいぜい頑張りな」みたいなことを言い出してチョウ採りに勤しみだした.
しかしガイドの言葉通り(ではないが),虫がいないとはいかなくとも非常に数は少ない.我々はさっさと退散し,日を改めることにした.
ジャングルから抜け出して村に戻ると,いろんな村人が声をかけてきて虫を売ろうとしてくる.
ほった君はチョウを買おうとしていた.村人が持ってくるクッキー缶みたいなやつの中にはぎっしりと三角紙が詰まっている.きっと見飽きないだろう.
ふいにほった君が「家の外壁にカミキリが止まってますよ!」というので網を振ったらかっこいいカミキリが採れた.
ほった君,ナイスである.これはいい.
外壁が木だから止まったのか,それともたまたまか…….
よく見るとハチなんかも結構来ていて,思い切り網を振りたかったが中に人がいるのでガマンした.
また,N田くんがヘビを探しているということはジャングルに入る前に一言言っておいたくらいなのだが,それはもう驚異的なスピードで村中に広まっており,中には「お前がヘビ好きなやつか?さっき捕まえてきたから買ってくれ」と売ってくる猛者もいた.
N田君は今までヘビを見ていないのに,2,3時間で採ってくるとは…….
ちなみにぼくは冷やかししかしませんでした.
まあそもそも買うつもりがなかったので持ってこられた甲虫を覗くくらいしかしなかったのだが,どれもこれもフセツ欠け等で買う気が全く起きなかった.本気で売りたいならせいぜい完品持ってこいよ
また,帰るときには村長が戻って来ていたのでガイドをお願いしたところ,「明日ならいいよ」とのことだった.個人的にはこれが一番の成果かなあ…….
ちなみにバイオリンムシを採りたいと伝えた.これはバイオリンムシが欲しくてここに来たわけではなく,キノコが生えている場所を知りたかったからである.
バイオリンムシはサルノコシカケにいるらしいので,夜来ればゴミダマやら何やらでうっはうはなはずである.
まあでも,結構欲しいけどね,バイオリンムシ…….
村長に話を付け,いざ帰ろうとしたところ,車のそばで自称・両爬マスター,ソフィアンが待ち受けていた.
ぼくが言えたことではないが胡散臭すぎである.
彼はN田くんに両爬図鑑を持ってこさせ,アレは知ってるだのコレは見たことあるだの始めた.
奥の人がソフィアン.これは「こいつに噛まれたら5分後に死ぬぜ」と言っているところ.
最終的に「ヘビが採りたいだって?じゃあ明日の17時にここに来い.値段?50リンギット?ダメだ,それは意味が分からん.100リンギット以上よこせ」と言ってきて,なんとか約束を取り付けた.
胡散臭いが,ヘビを採らせてくれるならイイ人じゃん!良かったぁ!と思った.この時は.
その後は最初の日に行ったアカエリトリバネアゲハのポイントに行った.別にアカエリをこっそり採りたいというわけではなく,単に近いからだ.
ここは川が流れているエリアで,川べりにはアカエリの集団吸水が見られるようだ.
しかし残念ながら集団吸水は見られなかった.解せぬ.
でもポツポツとアカエリは飛んでいるようである.ここで初めてアカエリを見ることができた.なんというか,デカい.
飛んでるところしか見られなかったので写真はありません!アカエリを知らない人はググってね!
アカエリに夢中になっていると,道端の切り株にタマムシが止まっていた.
ツマベニルリタマムシChrysochroa fulminansという種で,わりと普通種とのことだ.
でも嬉しい.
ここではこれくらいしか虫を採らなかったが,まあここはオマケなので良い.この後は一旦宿に戻り,ナイターをする場所まで移動することにした.ナイターの場所は昨日と同じである.
街でガバーっと飯を食い,ナイターセットをかついで安全運転で採集場所まで向かい,さあナイター開始だ!
今日はHID2台です.
開始早々ボトボトとデカい虫が.
アトラスの♀.
クマゼミちっくなカッコイイセミ.タイワンクマゼミの近縁種と見た.
そして,白布に襲来する,
ヤミスズメバチ
ぼくの衣服に入り込む,
ヤミスズメバチ
ぼくのお腹を思い切り突き刺す,
ヤミスズメバチ
クッソいってえんじゃ死ねボケカス!!
とまでは言わなかったが,刺されたときは「いってええぇぇ〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜……いたい……イタイ……」と半泣きになった.
こいつマジで痛い.
途中でライトをほったらかしにしてその辺を歩き回るが,いつものカミキリ(昨日参照)を除いてあまり虫の影がない.
う〜〜ん,明日は別のところでやるか……
ライトに戻ってきてほった君と談笑していると,またデカいのがボトっと落ちてきた.
こんばんは〜.
投げ捨てるところだったがほった君がぜひ欲しいと言うのであげた.まあ,甲虫のオミヤゲにはちょうどいいでしょう.
その後も来ないかな〜〜来ないかな〜〜と言っていると,ふいにヒゲが長くてデカいヤツがふらふら飛んできたのである.
あ〜〜,こりゃカミキリだな.よっしゃデカいしこれはいいぞ!と思ったが,地上に降りた姿はどう見てもカミキリではなかった.
バ,バイオリンムシィィィィィ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!
年甲斐もなくそう叫んでしまう.まさかここで来るとは!昼間,結構欲しかったんだよね〜〜とはチラっと思ったが,本当に採集できるとは思っていなかったので感無量であった.
しかしこの奇妙な形で飛べるというのだから恐れ入る.ケツのところの白いモシャモシャしたのが仕舞い切れていない後翅である.
結局この夜はこんなモンでおしまい.
3/3.
この日は待ちに待った(?)オランアスリにジャングルを案内してもらう日.各自,自然と気合が入るのが分かる.
村長がこっちの話を理解してくれていたのか疑問だったが,ちゃんと分かってくれたみたいで「バイオリンムシが欲しいんだろ?分かる分かる」と言ってくれた.
まあ昨日採っちゃったんですけどね.
さっそくジャングルを案内してもらう.
流石に一番偉いだけあって,どこにキノコがあるのか熟知しているようだった.昼間だったからかテンダマくらいしかいなかったが,キノコの場所を頭に入れつつ後に着いていく.
しばらく行くと,昨日行った川べりまで着いた.
村長は「チョウが採りたい奴はここで採っていれば良い.ところで,他の甲虫が採りたくないか?」
と言って来たので,文句なしに採りたいと伝えた.じゃあもっと奥まで行くから着いてこい,と言うのでジャングルの中へずんずん入っていく.
しかし,しかし,しかぁ〜〜〜し!乾燥がひどいためか,全く甲虫がいない...
村長は申し訳ない申し訳ないと言いながら非常に焦っているのが分かる.
ジャングルの急斜面を2人で何も言わず登っていく.たまに村長が滑落する.
正午を回り,いよいよ日差しが強くなってくる.暑い.
正直帰りたいっす…….
〜〜〜〜〜
結局何も採れまいままジャングルの中をひきずりまわされ,やっと解放されたと思ったが,この後すぐに宿に置いてきたN田君をここに連れてこなくてはいけない.
なぜならソフィアンと17時に待ち合わせをする約束をしていたからだ.マレー人が時間を守るとは思えないが
なんでこんなツラいんだ.
ということで車をトばし宿に戻り,またすぐとんぼ返り.つらいなぁ……
ということで,なんとか17時までに戻ってくることができた.ハァハァ.
しかし,
しかしながら!!!!!!
いくら待ってもソフィアンの姿がないのだ!!!!!!!!
痺れを切らし村人に「ソフィアンどこやねん」と訊いたら,
「誰それ?そんなやつ知らねーよ」とびっくりの回答をもらった.
これはびっくり.
仕方ないので他の村人にヘビ探しのガイドを頼んでもらうことに.すると,一人の男が名乗りをあげた.
アホである.
左側の人物がアホ.
急にマレー人をけなして何がしたいんだこいつは,と思われるかもしれないが名前がアホとのこと.
ということでヘビ探しの件は解決.ソフィアン?きっと実在しない人物だったんだよ,うん.
村の商店で飲み物を買い,これからジャングルの中でナイターすることにした(これから19マイルでナイターしようと思っている人へ:村に断りを入れておきましょう).
と,いうことで.
点灯です.
さっそくライトを放置してキノコへ.
おおぉ!いっぱいキノコ虫(注:キノコムシではない)がついてるじゃないか!!!
テンションあがりまくりである.写真?そのうち出します……
ナイターにはこれぞ!というものは来なかったが,ゴミダマをそこそこ採れたのでまあ満足かな.
今日の夜はこれでおしまい.
ちなみにN田くんはそこそこヘビを見れたようだ.
明日はいよいよキャメロンを離れ,採集地をガラリを変える日だ.
中編IIへ続く…….