麗しの島で,時を止めて踊り出す 後編
4/1.今日も晴れ.
今日も新しい場所探しに励むことにした.もっと,もっといい場所があるはずだ.
途中で,昨日見つけた花を掬ったが何も採れなかった.
だいぶ走ったところで,かなり分かりにくい場所に林道の入り口があるのを見つけた.後輩たちの「あそこはちょっと……」という声を無視し,ひとりずんずん乗り込んでいった.
少しだけ見ただけだったが,環境はまあ悪くなさそうだ.正午近くになったので,いったんコンビニまで戻って,昼飯を食べてからまた来ることにした.
昼過ぎの採集の部.
ビーティングをしてもあまり虫は落ちないが,チョウはそこそこ飛んでいた.
1時間くらい歩いていくと,送電線の鉄塔の根元のあたりまで来て行き止まりになっていた.どうやら,鉄塔の管理用の林道らしい.
ふと,木の葉っぱの裏側にハチのような虫が止まるのが見えた.腹端しか目視できなかったが,即座にリンゴカミキリ属Obereaのカミキリだと思った.
カミキリに飢えていたので,「オベレアァ!!!」と叫びながら網をフルスイング.
逃げられた…….
あのカミキリは絶対採りたい.ここで考えた.あのカミキリはこの木にたまたま止まったのか,それともホストなのか.
食痕が.ホストのようです…….
こうなればヤケだ.同じ木がそこらに生えていたので,一面をスイープしまくる.
と,上のほうの葉からハチのような虫が飛び立った!今度こそ!と網を振る.
入った〜〜〜〜〜!
めちゃめちゃかっこよく見える.虫がかっこいいのか,それとも自分ががんばって採ったからか.
追加個体を狙ったが,結局採ることはできなかった.
ここらでひとまずタイムアップで,晩御飯を食べに戻り,また日暮れとともにやってきた.
果たして虫が採れるだろうか?
実を言うと,ぼくは「どうせここでも成果が振るわないんだろ……」とカメラを持ち歩かずに夜見回りを開始してしまった.
開始早々ユミアシの仲間が木についているのを発見.台湾では,ユミアシの仲間はそこそこ環境が良好な場所に多いイメージがあった.ということは,ここも期待できるのでは?
間髪を入れず,ユミアシの仲間,キノコゴミダマの仲間,なんだかよくわからない仲間,ヒラタちゃん,テンダマなどがざくざく採れはじめた.
これだ!これがしたかったんだ!!!!なんでカメラを持ってこなかったんだ!!!!!!
台湾に来て,はじめて昆虫採集をした気がした.ここはいいぞ,ここは素晴らしい場所だ.こんな素晴らしい場所を自力で発見したという事実に震えた.
この夜はホクホク顔で帰路についたことは言うまでもない.ただ,同行したヘビ屋のN田くんは「ヘビがいない」とやさぐれていたが…….
明日も絶対ここで夜見回りをしよう.カメラを持って.
10日目に続く.
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4/2.晴天.
はやく昨晩の場所で夜見回りがしたい.もどかしい気分だ.
日中はビーティング,スイーピングなどで時間を潰す.そういえばここはあの記載されたばかりのネッタイマダラがいるかもしれないと材を削ってみたりもしたが,いまいちだった.
採集に励んでいるとあっという間に時間が過ぎ,夜が来た.
ここで,今日まで毎日自分と夜見回りをしていたN田くんだったが,あまりにヘビが見れないからか(今日までで5頭も見れていなかったはず)宿で寝ていると言い出すので,代わりにほった君を拉致し,夜の森に突撃した.
今思うと,N田くんはここで最大のミスをしていた.
さて,夜のこの場所は,昨日よりはさすがに虫が減っているような気もしたが,それでも今回の台湾では一番虫が出ている場所だと実感した.
ユミアシの仲間.
前回も採れて,同定もしたはずなのだが…….
テンダマ.昨晩は羽化シーンもみられ,出ている個体はやわらかいものばかりだった.
なんか写真が少ないけれど,これはぼくがあまりに採集に必死になっていたからで,実際はもっと多種のゴミダマ・甲虫が見られた.
この場所はやっぱりいいねぇ〜ほった君もそう思うでしょ?などと2人で話しながら森を歩いていたところ,2人のくだらない会話は「シューッ,シューッ」という謎の音にかき消された.
2人は何事かと音の出どころをライトで照らすのである.
前方にどでかいヘビがいて噴気音が出してこちらを威嚇していた.
この光景が映し出された瞬間,ぼくの頭の中にはひとつの言葉が思い浮かんだ.
コブラ.
あわわわわ…….
そう,実は台湾にはコブラがいるのである.
もしコブラがいた場合,なんとかして自分でつかまえて股に挟んで「チ○コブラ〜」ってやりたいね〜などと思っていたが,実際にそれらしきヘビと遭遇して「さあ,捕まえるぞ!」とはならないものである.
しかし,なんかこのヘビの模様,どこかで見たことがあるような…….
そう,どこかで…….
何だったかな〜と思っていると,ヘビのほうが急に逃げ出そうとした.
あ,こら!せめて思い出すまで待て!!!!と,持っていた網でバサッとかぶせた.
実はこの時点でこのヘビがアイツだという確信は持てていたが,「もし違ったら……?」となかなか手を出せずにいた.しかし,また,逃げられても困るので,思い切り首根っこをつかんでやった.
シュウダだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!
このヘビ,やたら顔がかっこいいので,自分の中で強く印象に残っていたヘビだったのである.ある種のあこがれもあった.そんなものが取れるなんて!!!!
ヘビに詳しい人から見たら,それこそ「シュウダとコブラを間違えるなんてありえない」んだろうが,ぼくはヘビなんてシマヘビとアオダイショウとマムシくらいしか分からないから大目に見てほしい.
ほった君に持たせて記念撮影.
やたらでかいでかい言っていたが,調べてみたところこれでもシュウダの成蛇では最小サイズらしい.おそるべし.
これにて採集を切り上げ.さて,このヘビを宿でヌクヌクとお休みしていたN田くんに何と言って見せてやろうか.「これ見つけたよ〜」ではおもしろくない.
ひとまず,このヘビを後ろ手に隠して宿の部屋に入る.N田くんは何も知らずすっとぼけた顔で「お疲れ様でした」などと言っている.もう笑いそうになる.
「あのさぁ,ぼくはね,人が汗まみれ泥まみれになって苦労して得た成果を,他人が労せずに奪っていくことがどうしても許せないんだ.君はどう思う?」と切り出した.後ろのモノを悟られないようにしながら.
N田くんは「え,どういうことですか?」と言っていたが,同じことをもう一度言ってあげたところ,「あ!!まさか!!!!!」と何かに気づき,
「それはモノによります!!!!」
と断言しやがった.
ぼくはN田くんに目をつぶっているように指示し,その間シュウダを両手に持ち,目をかたく閉じているN田くんの肩をやさしく叩いてあげた.
彼は,目を開けると,
( ゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) !?
これをそのまま実行し,「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と力なく叫んだ.
「今日もついてくればシュウダは君のものだったのにね.君にくれるかどうかはこれからの頑張り次第かな」と言ってみたら,
「そんなの見せられたら逆にテンション下がりますよ……」とつぶやいた.
そして彼はほった君を拉致して夜のヘビ探しに行ったわけだが,「この気持ちは試験に落ちた時の気持ちに似ている」とか,珍しいヘビを見つけても「こっちのほうが珍しいヘビを見つけられたのに,なんでこんなに悔しいんだろう.やはりヘビの大きさは正義か……」などと散々文句を言っていたらしい.
11日目に続く.
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4/3.晴れ.ちなみにこの日はぼくの誕生日です.
昨晩のシュウダの一件は楽しいものだった.一生の笑い話になるだろう(N田くんにとっては笑い話にはならないだろうが……).
今日はぼくの誕生日だし,何かいい虫が採れないかな〜と昨晩の森に突っ込む.
いい虫が採れるのは夜だろう,と思い適当に網を振るう.
かっこいい.マイコレクション行き.
まあそんなこんなで正午になっただろうか.
ここで採集でほった君にそろそろお昼ご飯食べにいくぞ,と声をかけたところ,
「あ,カミキリムシいります?」
と.誕生日だから,あげますよ.とのことだった.
もちろんほしい!何,どんなやつ?と見せてもらった.
え,え,え,え,え,え……
えええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!
ベニボシ!!!!!!!!!!!!!!!
もらっていいの?本当?もう返さないよ?
ほった君「いいですよ.ぼくチョウ屋ですし,何より先輩は誕生日ですから」
なんていい人なんだ…….神か…….あなたが神か.
これをもらった時点で,「タイワンベニボシ!?」と思ったが,これはベニボシカミキリRosalia (Eurybatus) lesnei Boppe,1911.日本では石垣島,西表島のみに産する美麗カミキリムシで,採集が難しい部類に入る(と思う)ため,全国のカミキリ屋から根強い人気がある種だ.ただし,石垣島ではほとんど採れなくなり,これを採りに行く人はほとんど西表島に行く.台湾ではかなり少ないという話もある.そんなものが……手中に…….
なんという誕生日プレゼントだ.間違いなく,22年間の中で一番幸せな誕生日だ!!
でも,欲を言えば自分で採りたかったなぁ…….
いや,諦めるのはまだ早い.ほった君曰く,林縁をふわ〜っと飛んでいたらしいが,なぜそこを飛んでいたのか?を考える必要がある.
ひとつは,そこがベニボシの飛ぶコースになっているため.
もうひとつは,近くに発生木,産卵木があるためだ.
とりあえず,暑い昼下がり,ベニボシが飛んでいたという場所近くでずっと張っていることにする.
ちょうどよく日陰になっていたので,日差しを直接浴びずにすんだ.
しかし,ベニボシが飛んで来る様子はない.それならば,近くに御神木があるのだろう.ベニボシが集まる御神木が.
周辺の朽ち木をしらみつぶしに当たっていく.しかし,そうちょうどよくベニボシが止まっているとも限らないし,何よりどのような状態の木に集まるのか分からない.
もういいか,この1頭だけでも……と思いかけたとき,がけの下に1本のボロい木が横たわっているのを見つけた.
しかしボロすぎる…….あんなのに来るわけがない…….
あ!!!!!赤いのが!!!!!!!!止まってる!!!!!!!!!
しかもでかい.
がけから滑落しないように過去一番に気を遣いながら,慎重に倒木に近づく.逃げない.いいぞ.そのまま…….
採った!!!!!採った!!!!!!採ったぞ!!!!!!!!!!
日本のRosaliaを全制覇したぞ!!!!!!!!!!!!
このベニボシで日本のRosalia,すなわちルリボシカミキリR. batesi,フェリエベニボシカミキリR. (Eurybatus) ferriei Vuillet, 1911,ベニボシカミキリをこの手で全種採ったことになる(ルリボシは普通種だが……).本当に嬉しい!
まだいないかな〜と思い,倒木をくまなく探す.
またついてた!!!!!!!
ベニボシを採集しご満悦のぼく氏.
さて,楽しい時間はあっという間に過ぎ,また夜がやってきた.
もう採集できるのは明日の午前中だけであるため,夜見回りも今日が最後.自然と気合いが入る.今回はさすがにN田くんも夜見回りについてきた(ついてこなかったら流石に,である).
木をひとつひとつチェックしていくが,さすがに昨日までと同じメンバーばかりになってきた.個体数は多いが…….
しかし,夜はこんなに甲虫でにぎわっているのに,なぜ昼間は甲虫が少ないのだろうか?やはり探し方が悪いのかなぁ…….
頑張って採集していると,不意にN田くんに前を遮られた.
足元に大きめのタイワンアマガサが!!!!!
タイワンアマガサとは,台湾に棲息する毒蛇のひとつで,致死率が比較的高い毒蛇として恐れられているらしい.
そんなものを,N田くん,つかまえちゃうの!?
さすがに網は使ったが,見事捕獲に成功した.すごい.
N田くんがつかんでいるのを見ると,ぼくも持ってみたくなった…….咬まれたらたぶん死ぬだろうなあ.
パシャリ.
こんな調子で夜見回りは終了.最後だからと他の場所にも行ってみたが,結果は芳しくなかった.
12日目に続く.
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4/4.今日が泣いても笑っても最終日.天気は!?
気持ちのいい朝だった.今日が採集できる最後の日だ.午前中だけだが,なんとかいい虫を採りたい.ベニボシとか.
そう,ベニボシ,ベニボシの追加を採らねば.
天気は晴れているが…….
採集地に到着した.例の御神木の近くで午前中いっぱい粘る予定だった.
クロツヤムシが歩いていた.
しかし,急激に雲行きが怪しくなり,雨まではいかなくとも,完全に太陽を遮ってしまった.
う〜〜〜〜〜ん,これでは厳しいか…….
結局ベニボシの飛来はなし.後ろ髪をひかれつつ,採集地にさよならをする.
さようなら.また来ます.
屏東縣から台中市まで車を運転し,そこから空港へ.
日本へ帰る便が翌日の朝イチだったため,空港で一泊した.
こうして,平和な採集は幕を閉じた.メンバーの問題でたくさんの人から心配された採集行だったが,大きなトラブルが起きることもなく,無事に日本に帰ってくることができた.もっと成果がよかったら何も言うことなしだったのだが…….
これでほった君,N田くんの両氏は,必ずトラブルを起こすという生研内での悪印象を払拭することができるだろう.3人とも,車のハンドルを握ったわけだしね.
何度も何度もうるさいかもしれないが,とりあえずは何事もなく帰って来られたという事実が何よりだ.
このブログの,今月の写真のデータ制限に引っかかる勢いなので,採れた虫の詳細などはmixiで公開する予定です.よろしければマイミクになってくださいね.
http://mixi.jp/show_profile.pl?id=62481306&from=global
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