君に会いたい 対馬で会いたい
モンクロベニカミキリPurpuricenus lituratus Ganglbauer, 1886.
2年前,その存在をありありと見せつけられ,それから今まで一回も目にすることのできなかったカミキリ.
何回撃沈したか分からない.もう,何回諦めかけたか分からない.
あれから月日が経ち,もう学生最後の年となってしまった.
今回こそは落としてやる!!!!!!!との意気込みで,対馬行きフェリーの切符を手にしたのだった.
今回の同行者はカオカクシ君(修士1年・生意気・アニメオタク),大台ケ原すがる君(学部3年・クソ生意気・アニメオタク)だ.
なかなか限界感が漂うメンバーである.
別便でマイカー(ホンダFIT)(底はもうボロボロ)が到着したので早速乗り込み,上対馬を目指す.
明け方の厳原港.
途中すがる君が車内でゲロを吐くトラブルがあったものの(ていうか酔ったなら言えよ!),海沿いの某公園に到着.
まずはチョウセンヒラタクワガタを採るためのトラップを仕掛ける.
実際GWはクワガタにはまだ早いと思ったのだが,知り合いのクワガタ屋いわく「どうだろ〜.いるんじゃない?」とのことだった.適当すぎるだろ…….
そ,の,ま,え,に,,,駐車場の真上でシイの花が満開だったので掬わせてもらう.結果はシロトラ,トビイロ,チャイロヒメハナ……早速上対馬クオリティ全開だ.上対馬の花掬いではいい思いをしたことがない.
花掬いはほどほどにして,熟成させた特製・バナナトラップを仕掛けた.何と言ってもすがる君のゲ……いや,これ以上はやめておこう.
それから場所を替えて,別の公園へ.
ここらへんの花でモンクロベニが採れるらしいのだが…….早速探索開始.
と,すぐにセイボウが見つかった.
初採集のものなので最初は喜んでいたが,よく見るとそのへんにうじゃうじゃいたのであった.
どうやらナミハセイボウのようである.
ナミハセイボウChrysis japonica Cameron, 1887.
図鑑によるとハムシドロバチSymmorphusの仲間に寄生するとあったが,実際にハムシドロバチも同所的に多数見られた.
サイジョウかツヤケシか…….手元のサイジョウと前伸腹節の彫刻がだいぶ違うけど,前胸に黄紋なんてないしサイジョウかなぁ.
花も咲いている.
花のまわりにはハチがかなり飛んでいる.大部分はメンハナバチHylaeusの仲間のようだが,中にはナミギングチEctemniusやヒメギングチCrossocerusも混じっているようだ.
ハトガユギングチに落ちたが,さてどうだろう.
これらの花にはモンクロベニどころかカミキリすらろくに落ちず,ちょっと場所をかえて花を掬ったがそこでもだめ.
お昼ご飯を食べ,また場所を移動することに.
今度は最北端に近い某公園で採集.エノキミツギリゾウムシというミツギリゾウを狙ったが,スプレーしてもろくに虫が落ちず…….
ハチもろくにおらず…….
なんだなんだ,しょうもないぞ!?
夕方になってしまったので,ばんめしを食って夜見回りにそなえる.
最初にバナトラポイントを見回った……が,カブリモドキしか来ていなかった.
しょーもない.この個体は結局すがる君にあげた.学部3年のくせにカブリモドキを採ったことないとか言うからだ.ほんとはぼくが欲しかったのに.
その後は御岳に登るなどしたが,ツシマヒサゴとかトゲヒサゴとか見つけただけだった.
やっぱ上対馬ってクソだわ.
〜〜2日目〜〜
今日からはずっと下対馬での採集になる.まずは花を掬いたいとの皆の希望にこたえて,某公園へ.
ここは前回来た時に花が結構咲いていたので,外すことはないだろう……と考えていたのだが,実際に着いてみると全然花がない.
申し訳程度に咲いているツツジ(ツツジはちょうちょとかハナバチしか来ないから花にはカウントしない)を見るとコマルハナバチ対馬亜種がいっぱい来ていた.
申し訳程度に少量摘まんですぐに場所を替えた.
次の場は最南端にほど近い某公園だ(なんか今回公園ばっか行ってるな).ここではハチがいっぱいいるらしく,花も咲いているはずだし,何よりモンクロベニの記録もある.期待が高まる!!!
着いてみると確かに花は咲いている.シイだが…….しかもちょっとだけだ.
どうせこんな花じゃキモンハナくらいしか採れないだろう.
というわけで花は後回し.ここでの大本命はニセハイイロハナカミキリRhagium (Rhagium) pseudojaponicum Podany,1964だ.
たかがラギウムと侮るなかれ,対馬のものは本土とは別種なのだ.
別種なのだ!!!!!!
確かにアカマツはたくさん生えている.しかもほとんど枯れている.
しかし絶妙に古く,樹皮をめくってもムカデくらいしか出ないので早々に諦めた.
というわけで飛んでいる虫(まぁハチですよね)にシフトするかな……と思った刹那,カオカクシ君が,
「あの赤いムシはなんだぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と大絶叫して駆けていった.
なんだあいつ,アホなの?と思って見ていると,確かに赤いカミキリムシと壮絶な空中戦を繰り広げている.
どうせタダベニだろ……と思った瞬間,
「紋がある!!!!!!!!!モンクロだぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
とまた大絶叫した.
「マジ!?(は!?!?ちょっと待ておれより先に採るとか許さんぞお前)」と叫んでおいてカオカクシ君の元へ駆け寄ると,どうやらまだ捕まえられないでいるらしい.
これはチャンスだ!あほなカオカクシ君を光速で追い越し,飛んでいるカミキリのもとへ一直線.
……したかったが,モンクロベニは天高く舞い上がりもう下界には姿を見せませんでしたとさ.
ふ,
ふざけやがって.
網を持ち,ヤツの飛行軌道上で待ち伏せするも,とうとう姿を見せてくれなかった.
ふざけやがって.
まぁいることは確かなんだ.それが分かっただけでもいいですとも.
ちなみに後で合流したすがる君に顛末を伝えると,彼は興味なさそうに「ふーん」と言っていた.
お昼を迎えたのでヤケ食い(500円)してまた場所移動.
午後からは伐採地めぐりを行うことにした.
なぜならモンクロベニは伐採地のコナラのひこばえに後食に集まるからである.
首を洗って待ってろ!
第一の伐採地.
コナラは少しだけ生えているようだ.
そのへんをカミキリが飛んでいたので掬うと,キモンハナだった.
かわいそうなカオカクシ君…….
早速伐採地に入りかかったところ,ちょうど目線の高さをベニカミキリっぽいのがふよ〜っと飛んで行った.
ちょうど手が出せないタイミングだったので「タダベニ飛んでいるのかぁ.タダベニしかいなかったら嫌だなぁ」と周りを牽制しておいた.
これは「どうせタダベニなんだからそれっぽいものを見てもお前ら採るなよ」という意味である.
場は整った.それではひこばえ巡りを開催するとしよう.
一株目.
いねぇ.
二株目.
に歩み寄ろうとした瞬間,赤い虫がふわっと飛び上がったのが見えた.
とっさに網を振る.が,思いのほか低い場所を飛んでいたので外した.
が,ちょうど地面に落ちてくれて,その特徴的なエリトラをまざまざと見せつけてくれた.
はい.
採れたぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!モンクロベニ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
と勝利宣言をさせていただいた.
あのなぁ,いい思いをするのは助手席と後部座席でいっつも寝てるきみたちじゃなくて,延々とひたすら運転してるぼくじゃななきゃいけないの!
しかしカオカクシ君が目の色を変えてぼくが見ようとしていたひこばえを勝手に見ようとする.おいばかやめろ!
そして,「ついてる!!!!!!!」との声が.やめろ.やめなさい.
負けてたまるか〜〜とぼくも見回る.
その後ぼくがひとつ追加して,この心理戦を多分に含んだ採集合戦は終わりを告げた.
いや〜きつい戦いだったぜ…….
ツマムラサキセイボウChrysis splendidula Rossi, 1790も採れた.
その後はたてら山の近くにゲロバナナトラップを仕掛け,ちょっと見回った.
ツシマチビコブツノゴミムシダマシByrsax tsushimensis Miyatake, 1970が欲しくて……もう持ってるけど.
きのこを割るとさっそくByrsaxが出てきた.ツシマか!?
なんかでかいし角が立派だな…….タダ(ニッポン)じゃね,こいつ…….
チビコブツノゴミムシダマシ(ニッポンチビコブツノゴミムシダマシ)Byrsax niponicus Lewis, 1894.
説明しておくと本種は九州は一番の普通種,つまり大ハズレ.
まぁこんなもんだろ.
暗くなってきたのでばんめしを食べ,また大移動.
今度は微妙に上対馬にある某神社.ここではツシマオオズナガゴミムシという非常にイケてる虫が採れるらしい.
場所を知る人いわく「あそこはいっぱいいるよ!ツシマオオズなんて九州のオオズでは最弱だよ!採れないわけないって〜〜」ということらしい.
つまり外したら最弱の最弱ということになってしまう…….
神社に着くころにはだいぶ暗くなっていた,というか完全に夜だった.コップを仕掛ける前に,もしかしたら夜見回りでも採れるんじゃないか…….というシュークリームよりも甘い考えが脳裏を過ぎる.
我々はコップを放棄した.ヘッドライトを装備して,ちょっと沢っぽくなっているところを探す.
う〜〜〜〜〜ん……
いねぇ……
カオカクシ君,見つかったー?と3分に1回くらいのペースで訊くが,どうやら彼も採れていないらしい.
ツシマナガとチャグロヒサゴはいっぱいいるんだけどなぁ.あとツシマアカサシガメもよく歩いている.
我々は諦めてコップを20個そこら仕掛け,早々とホテルに戻って寝た.
〜〜3日目〜〜
ホテル○もどしで目が覚める.
やっぱりここはいいところだなぁ.何より無料で使えるところが良い.
花には期待できないことが分かったので,モンクロベニが採れた伐採地で採集することに.
朝はモンクロベニがそんなに飛ばないだろうから,別の虫(まぁハチですよね……)をターゲットにした.
立ち枯れを見ていくと,キバチの仲間が.
最初に見つけたのはカオカクシ君だけどね!よくやった!
ヒラアシキバチかと思ったが,あれは晩夏に出る虫だから違うはずだ.
カタマルヒラアシキバチTremex contractus Maa, 1949だと思うが,どうでしょう.
右がヒラアシキバチ.
全員で2〜3頭採れたので,まぁまぁいたんだろう.
あとは積んでいる材でイワタギングチE. schlettereriを見つけた.
これまでに何度かまぐれでド珍品のギングチを落としたことはあるが,なぜかド普通種のギングチであるイワタを採ったことがなかったので嬉しい……!!!
が,調べてみると対馬の個体群はコレアギングチssp. horvatovichiらしい.
知らんがな!
そんなこと言ったら沖縄亜種のサカグチギングチは採ったことあるよ…….ノーカンだノーカン.
後はこまごましたのを採って,場所移動.
今度はラギウムのリベンジだ.
今回はドンドン奥に進んでいく.すると,比較的最近枯れたと思われるマツがぽこぽこ見えてきた.
こ,これは期待できるんじゃないか……!と思い,樹皮をベロンと剥がす.
ゾウムシの蛹がポロポロと落ちてきた.ふざけんな.
どうやら新しすぎるようだ(ちなみにニセマツノシラホシゾウムシのようです).
立ち枯れているのは新しいやつばっかなので,今度は切られている材をアタックすることに.
まずは,剥けやすいここをな…….あ,
でっ出たぁ〜
……その割に,こいつ微動だにしないな.死んでね?
死んでる……
この後材を替え替え,全部で数十は出しただろうか.
全部死んでたがな!
どうやら松くい虫の防除のために材を蒸しているらしい.
なるほど,効果てきめんのようだ.
ふざけんな〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!
綺麗な死骸をふたつばかりお持ち帰り.
まぁこんなもんだろ.標本にしたらどうせ死ぬんだ.
われわれの心を映すように大雨になってきたので,撤退.
夜にそなえる.が,土砂降りの中山登りはしんどすぎるので埋めたコップをチェックしに行くことにした.
完全に夜になった中,某神社に到着.雨はずっと降っている.
なあに,雨が降ったくらいのほうがオオズにはちょうどいいのさ.
案の定,コップは佃煮状態だった.
なんの佃煮かって?
ツシマオサムシ.
ふざけんな〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!1
まぁ一頭くらいはかかるだろ!!と余裕こいてたらこのざまですよ.
はぁ.しにて.
帰る途中,「あそこはいっぱいいるよ!ツシマオオズなんて九州のオオズでは最弱だよ!採れないわけないって〜〜」という声がずっとリフレインしていたのは言うまでもない.
〜〜4日目〜〜
ホテル○もどしで起床.夜通し降っていた雨も上がり,いい天気だ.
今日が最終日.午前中までが採集に使える時間となる.
もちろん,モンクロベニの追加を狙う.
例の伐採地に行き,モンクロベニが飛ぶのを待つ.
しばらくすると,すげろ……じゃなかった,すがる君がなんか声をあげたので行ってみると,モンクロベニを採っていた.
なんだお前興味なさそうにしてたじゃねえかおれはこういうやつが一番嫌いなの!
どこにいた?と訊くと,ここにいました,と葉上を指さす.モンクロベニもう一頭とまってんじゃ〜ん!あほめ!
こいつは私がいただきました.
モンクロベニの追加が採れたわれわれは優雅にハチ採りを楽しんだ.
ギングチを狙うすがる君.キモい……じゃない,オタクくさい……でもない,いかしたシャツを着ている.
そんなこんなでもういい時間なので,採集を切り上げてフェリー乗り場へ.
ああ,対馬よ…….学生最後の採集にしてはかなりしょうもない部類だったけどモンクロベニを採らせてくれてありがとう…….
社会人になったらまた来ます…….ていうか就職できるの?おれ.