ごみだまろぐ

甲虫屋のネガティブ日記

歓びも哀しみも人の行く道

福岡県の某山に行ってきた.


今の時期はカエデの花に集まる虫が旬(?)となる.カミキリムシが主だが,ゴミダマやゾウムシも入る.

九州北部には,この時期にだけカエデの花に集まる珍しいカミキリムシとして,ホソツヤヒゲナガコバネカミキリ九州亜種Glaphyra nitida adachii (Takakuwa et Fujita, 1981) がいる.
コイツはかつては福岡県の英彦山で採れた個体をもとにヒコサンヒゲナガコバネカミキリという独立種として記載されたが,後に亜種に格下げとなった経緯がある.一般的にはadachiiと呼ばれるようだ.
過去には英彦山の山頂付近に生えているカエデによじ登って(危ない!)花を掬うことでしか採れなかったようだが,現在では英彦山だけではなく他の場所でも棲息が確認されており,かつてほどの珍しさではなくなったようだ.


前置きはこのくらいにしておこう.


10度寝くらいしてしまい,だいぶ遅れて現地入りを果たした.時間帯にして10時半過ぎ.

先客が2,3人ほどいた.競合者がいることは望ましくなかったが,まあ有名ポイントだから仕方ない…….

一般的に花に来るカミキリは午前中が勝負だが,ヒゲナガコバネカミキリ属Glaphyraのカミキリは13時14時からでもバンバン飛来するようなので,そんなに遅れてはいないだろうと高をくくっていたら,既に10頭以上は採れていると先客から教えてもらった.














ショック.




まあぐちぐち言っていても仕方がない.たった1本の木に先客が粘着していたのでさっさと他の木の花を掬いに行こう.



















ない.




花がなああああああああああああああい!!!!!!!


どうやら先客が粘着している木しか花が咲いていないようだ.終わった…….

後からノコノコ来た人間が「掬わせてください^^」と言うのは厚かましいにも程がある.昆虫採集は常に早いモノ勝ちなのだ.

先客と世間話をしながら,こりゃ今回は負けだな…….手ぶらで帰るか……と思っていたら,先客から,


「突っ立ってても仕方がないでしょ.花を掬わないとadachiiは採れないぞ!」と言われた.


「えっ!掬ってもいいんですか!」と思わず声に出た.


「ずっと君が掬うのを待っているんだが」 やったァーーーー!!!!!ありがとうございますありがとうございます!!!!


しかし掬えども掬えどもadachiiは入らない…….先客が採り尽くしたに違いない.絶滅させたんだ.



先客が「君は掬うのが下手だね」みたいなことを言いながら花を掬った.





一発でadachiiが入った.




やっぱりぼくは網使いがメチャメチャへたくそだ…….こうなればヤケだ.下手な鉄砲数打ちゃ当たるんだよ!クソ!!!!


もう腕がブルブル震えるまで花を掬いまくる.幾度目か,網の底に,小さく,ホニョホニョしたカミキリが入った.





adachiiだった.


うひょおおおおおおおおお!!!!!!やったぜ!!!!!!!1

だんだんコツをつかめてきたのかどうなのかわからないが,10回に1回くらいはadachiiが入る.というか木が1本しかないのに何人も採集者がいるものだから,1回花を掬うとその後しばらく虫が入らなくなる.


そういった理由で少ししか追加できず,悔しかったから他の採集者が採集をやめた後でもぼくは花を掬い続けた.

結局,午後3時過ぎに最後の1頭が採れ,その後はパタリと採れなくなった.採集できたのは4頭だけだった.


悔しいなあ.来年は午前6時から粘っていようかな.



カエデを掬い終わった後,なんと採集者の1人がキボシチビカミキリSybra (Sybra) flavomaculata Breuning,1939の材採に連れて行ってくれると言う.ありがたくお願いすることにした.

キボシチビは九州では珍品であるという.野外ではきわめて採りにくいので,幼虫が入っている材を持ち帰り,家で成虫にする方法が確実らしい.

この材採は結構しんどかったが,材を5,6本持ち帰ることにした.出てきてくれるとよいが.



材採が終わり,帰る時にこの方の名前を伺ったが,とある約束を守ってくれたら次会ったときに教えるとのことだった.

とある約束ってのはまあ,うん…….ヒミツです.


でも守れそうにないなあ.ごめんなさい…….



そんなこんなで,悔しい思いもしたし良い思いもした採集だった.まあadachiiは前回の採集で採れたんだけどね.