ごみだまろぐ

甲虫屋のネガティブ日記

初見殺しの存在確認

「高菜,食べちゃったんですか!?」

ネットをよくする人間ならば,このフレーズに聞き覚えのある方も多いだろう.


知らない人向けに説明すると,これは,とあるラーメン屋で,ラーメンが来る前に卓上の高菜を食べたところ,店側が激怒してその人を退場させてしまった……というコピペの一文だ.


しかし,このお店が福岡市博多区に実在するということを知っている人はそう多くない.ということで,今日行ってきた.


ちょうど今日,ぼくは天神に行く用事があり,帰りにこのラーメン屋の存在を思い出したのでちょっと寄ってみるか〜と思ったのが発端だ.

このラーメン屋の名前は元気一杯といい,福岡市営地下鉄呉服町駅で下車し5分程度歩くと到着できる.

ただし,店にはのれんやのぼり,看板といったラーメン屋であることをアピールするものは全く無く,前情報無しではたどり着くことはできない.扉の前に立つと豚骨ラーメンの匂いがかすかにする程度だ.

これは,店側の「一見さんお断り」の考えを如実に反映したものである.


これだけならまだいい.実はこの店,日本の法律が全く通用しないという専らの噂だ.

店内には独自のルールがあり,

・店内ではキョロキョロしてはいけない
・メニューを訊いてはいけない
ラーメンが来る前に卓上の辛子高菜を食べてはいけない
・スープを先に飲まなければいけない
・携帯電話,カメラ,喫煙禁止

等がある.破った場合,店員がすっ飛んできて退場させられるらしい.

客側は非常にびくびくしながらラーメンを食べなければいけないということだ.

最近は丸くなったらしいものの,

そんなスリリングなお店,おもしろいに決まっているじゃないか.


というわけで入店.

扉を開けると,「イラッシャイマセェェェーーーーー!!!!!!」と店員から怒号が飛んできた.なるほど,元気一杯ね.

「カウンターの席ドウゾォォォォォ!!!!!!!」と怒鳴られ,言われるがまま座る.前情報では,「当店では初めてですか?」と言われ,初めてですと答えると退場させられるらしいのだが…….もう言わなくなったらしい.

お昼の時間を外したためか,店内はガラガラ.テーブル席に男性客1人しかいなかった.

店員は男性店主と,バイト君(男)だけのようだ.

前情報では店主の奥さんがアニメ声で接客を行うらしく,ひそかに楽しみにしていたのだが…….


店内をこっそり見渡すと,煙草禁止,携帯禁止,カメラ禁止のステッカーが至るところにベッタベタと貼ってある.なるほどこれは前情報がなくても禁止事項なのだなと分かる.


そのくせ卓上の高菜には「今すぐ食べてください」と言わんばかりに箸がぶっ刺してあった.もちろん注意書き等無し.落ち着け,これはトラップだ.

しばらくすると店員が水を持って来て,「注文ドウゾォォォォ!!!!!!」と叫んだ.

ぼくは常連の振りをして「ラーメン,カタで」と注文した.

ちなみにメニューはラーメン,きくらげラーメン,チャーシューメンがあるらしいが,どこにもそんなことは書いてない.おとなしくラーメンを注文するのが無難だと思われる.


注文まではスムーズにできた.さて,後はラーメンを待つだけだが…….



ラーメンが来るのがやったら遅い.

博多ラーメンって注文してからすぐ来るのが特長だと思うのだけれど,この店はぜんぜん来ない.混んではいないし,よっぽど凝ったラーメンを出すらしい.


しかも携帯が使えない上,誰かと来たとしても「私語厳禁」らしいのでひたすら身じろぎせず待っている他ない.つらい.

5分くらい待っただろうか,ラーメンが運ばれてきた.

「スープからお飲みくださいね〜」と店員がにこやかに言ってきた.……が,目が笑ってない.

「麺から先に食べてみろ,退場させるぞコラ」と言わんばかりの威圧感があった.


言われるまま,スープを飲んでみる.


塩分控えめで,豚骨のうまみだけで勝負しているようなドロッとした濃厚スープだ.好きな人は好きなのだろう.ちなみにぼくの舌にはかなり合わなかった.2口飲んで,「あ,マズいな……」と思った.お店の人,申し訳ありません…….

麺のほうがおいしくないという評価があったが,むしろ麺は普通だと思った.何の変哲もない,細いストレート麺だ.というか,ぼくは博多ラーメンの極細ストレート麺の違いなんて分からないけど.


何の滞りもなく8割がた食べて安心したところで,客が3人入ってきた.

1人客と2人客のようだ.


「こんな時間にも客入るんだなあ」などと呑気に思っていると,


「お客さん!ウチは飲み物の持ち込み禁止ですよ!!!!!」

という店員の罵声が!!!

「おっ!退場来るかな!?」と内心ワクワクして様子を見守る.


「その手に持っているコーラのペットですよ!そんな甘いもの飲みながらうちのスープを飲まれても困るんでね,今すぐポッケに入れてください!!!」

おや?意外にも退場処分にはしなかった.でもイエローカードといったところか?しかし客の方は,なんでか知らないけど店の外に出てしまった.店の人の「ポッケに入れれば大丈夫ですよー!!」の声を振り切り,扉を開けて逃げてしまった.

残された一人のほうはテーブルに着くや否や,店員が来ないうちに「ラーメンお願いしますー!!」と注文した.注文のタイミングは店員が水を持ってきた瞬間,というルールがあるらしいのだが…….

でも,店員は「伺いますのでお待ちくださいーー!!!」と咎める様子もなく.


ぼくは「なんだ,丸くなったという噂は本当だったのか」と少しガッカリしながら,700円を払って店を出た.



実際に元気一杯に行って分かったことは,おそらく現在は一見さんというだけで退場処分にすることは少ないのだろうということ.あの二人組は誰が見ても分かるくらい初めての客だったのだが……(ぼくもだけど).

しかし,食事中に持ち込んだジュースを飲んだり,ラーメンが来る前に高菜を食べるなど「スープの本当の味が分からなくなる行為」に及んだ場合,退場させられることは十二分に有り得る.実際に退場処分を下す瞬間を見てみたいが,何回も通えば機会はあるだろうか.正直同じ値段でここよりおいしいラーメンを出す店なんていくらでもあるから,もう来たくないというのが本音だけど…….


現在,ネットで噂されているような傍若無人さを求めてこのお店に行くとガッカリするに違いない.明らかに噂だけが独り歩きしている.本当は,ゴクフツーのお店だ.普通にしていれば退場させられるなんてことはまずないだろう.