麗しの島で,時を止めて踊り出す 前編
台湾は日本の南西諸島のさらに南西に浮かぶ島で,だいたい九州より少し大きいくらいの面積だ.所属国は中華人民共和国ではなく,中華民国ということになっている.きわめて山がちな地形で,平地は亜熱帯〜熱帯の気候であることに対し,高標高では積雪が観測されることもある.ちなみにもっとも標高が高い地点は玉山の3,952mで,この玉山は日本統治時代の新高山(にいたかやま)のこと.
昆虫相は,日本の琉球にいるものやそれに近いものがいる一方で,大陸由来のものも多い.某氏は「台湾は南西諸島の上位互換」などと言って憚らないが,それはさておき採集がかなり楽しめる場所である.さらに,日本語が話せる人がそこそこおり,治安も比較的良い,と良いことばかりである.
ぼくが台湾に採集に行くのはこれで2回目だ.前回は写真をほとんど撮らず,記憶もかなり薄れてしまったので採集の様子を記事に書くことはできないが,それなりに楽しい思いをした.まあ,そのぶんトラブルもかなりあったのだが…….失踪未遂とかパスポート紛失とかね.
今回行くメンバーはぼく,チョウ屋のほった,ヘビ大好きのN田の3人で,ぼく以外のこの2人は生研きっての問題児(?)だ.この2人は遠征をする際,必ず何らかのトラブルを起こしたという話がある.行く前から不安だ…….
今回はどうなる!?
3/24.荷造りは前日に終わらせておいたので,当日は時間通りに起床して空港に向かうだけだった.空港に着いた頃,他の2人も空港に着いたと連絡があった.よし,とりあえずは飛行機乗り遅れという馬鹿な失敗はなくなった.
チョウ屋のほった君.見てくれだけは良い彼である.
問題なくチェックインを終わらせ,搭乗手続きも終了させる.ここで,免税店でたばこを1カートン買おうとしたのだが……財布を開いて気付いた.
今回の遠征に使うお金を全額持ってきてない…….
馬鹿ですね.
とりあえずほった君に頭を下げ,今回の遠征のお金を立て替えてもらうことに.ほった君とほった君のご両親,本当にありがとうございます.
開幕直後からやらかしてしまった…….
ひとまずはお金の問題が解決し,ちょっと落ち着きを取り戻しながら飛行機へ.さよなら日本…….
飛行機が飛んでからはひたすらぼーっとしていた.
やがて飛行機が着陸し,搭乗ハッチが開いた.南国特有のむわっとするような熱気が身を包……まない.
寒い.
極寒の桃園空港.
その後はバス,高鐡,電車を乗り継ぎ,台中市(たいちゅんし)のレンタカー屋まで.
異国のバスの車内で不審者感満載のN田くん.
高鐡の車内.
台湾の電車.なぜか方向幕に「電車」と書いてあった.そんなことは分かってるよ!
台中の街.
問題なくレンタカーを借りられたわけだが,ぼくがレンタカー屋の場所をまちがえてメモっていたのでかなり歩き回るはめになってしまった…….ごめんなさい.
既に時間は午後8時くらいだったので,このまま台湾中部の南投縣(なんとうけん)へ向かった.
台中市での運転はかなり難しく,街中の運転が得意だというN田くんに代わってもらった.
南投縣に着いてさっそく風景を撮るN田くん.ここまでの道のりで,何回も野犬に遭遇した.犬嫌いのN田くんはすっかり参っていた.
コンビニがあったので遅い晩ごはん.
ぼくは黒松沙士(Sarsi)を買った.少し濃いルートビアのような味.すんごいうまい.
これ,うまいですね!
これ,微妙っすね…….
ここから先はぼくが運転した.右側走行には慣れず,よくウィンカーとワイパーを間違えた.
走る走る.
ようやく目指していたポイントに着いた.さっそく夜見回りをした.N田くんなんぞは「野犬がこわい」などとのたまい車内でガクガクと震えていたが,ぼくが楽しそうに歩いているので観念して車から降りてきた.
天気はあまりよくなく,小雨程度.少し寒い.
森に入るぞ!!!
アリ的な生き物.というかアリですけど.
イナゴ?
第一号かな?ピンボケだけど.
アカガエルの仲間かな?
ユミアシの仲間.
道にぶら下げてあった謎の物体.結構ドキっとした.
あの,ゴミダマの同定はお待ちください…….
ロケーションはいいのだが,天候がよくなく,あまり虫は採れなかった.今日はここで車中泊.おやすみなさい.
(2日目へ続く)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3/25.朝8時ごろ目を覚ます.まだ雨が降っていた.憂鬱だなあ.
場所移動します.話し合いの結果,とりあえず宿に行くことにした.前回も利用した宿だ.
途中でコンビニに寄った.全家である.ちなみに入店時のチャイムが半音?高い.
コンビニめし.結構うまい.
そんなこんなで宿に着いた.宿に入るとさっそく熱情的主人(宿の主人がFacebookで熱情的主人と呼ばれていたので,我々もそれに倣ってそう呼んでいる)が出迎えてくれた.とりあえず4泊できないか相談したところ,部屋が埋まってしまって泊められないということだった.
しかしそんなぼくらを見かねたのか,宿の離れになら泊めることができるという.2部屋で1日2500元だった.
今考えるとかなり高いが,当時は値下げ交渉のことなどすっかり忘れていて,ついついそれで良いと言ってしまった.
宿の周辺.虫がいねえ.とりあえずハチ屋の先輩への嫌がらせにマルハナバチの仲間を採っておいてあげた.
しかし,この時になっても一向に雨は止まない.もう嫌になってきた.ああ日本に帰りたい.
その後は超有名ポイントの南山渓に行った.
南山渓周辺の風景.
南山渓は有名なわりには入口がすさまじく分かりにくい.知っていなければわからないレベルだと思う.
チョウはよく採れるらしいが,甲虫はどうだろうか?
ほった君が開始早々ジャノメチョウの一種を採っていた.曇りだからかジャノメくらいしか飛んでいない.
ヒキガエルの仲間を見つけた.N田くんが同定してくれたが名前を忘れた.
イラクサの仲間.手がかすかに触れただけでも飛び上がるほど痛い.今回の遠征で合計2回もこいつに手を突っ込んでしまい,泣くかと思った.
ナナフシの仲間.別の場所では成虫を見つけた.
日中見た甲虫の面々.死にそうな花を掬ったらしょぼいハナムグリとオオキスイの仲間が入ったが,本当にそれくらいだった.
叩こうが掬おうが甲虫が落ちない.こいつはひどい.
必死に採集する人たち.
結局ぼくはほとんど何も採れず,帰路についた.
昼ごはんかと思いきや,これが晩ごはんです.
夜見回りもしたが,何の写真も撮っていないことから,おそらく本当に何も見れなかったのだろう.ずっと雨だったし.
ちなみに,宿に帰ってシャワーを浴びたら,やけどしそうなくらいの熱湯か,冷水しか出ない謎仕様だった.熱情的シャワーだ.
(3日目に続く)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3/26.朝に目を覚ます.外を見る.あ,雨だ.
テンションが上がらない.とりあえず初日に夜見回りを行ったポイントへ.
適当にそのへんを叩きまくる.
ぞうむし.だいぶありえない成果だけど,何も落ちないよりはまし.
気晴らしにそのへんを材を削ることに.
マメクワガタFigulus punctatus Waterhouse,1873が出た.3,4頭くらい出した.
かっこいいハナムグリの仲間も.何だろう?こいつも結構出た.
樹皮めくりで.
材がなくなってきたので,またビーティングを再開する.
わお...こんなものがなぜ落ちてくるんだ?
と,でかい倒木を見つけたのでこの倒木で虫を探すこととする.
材の穴から顔を出していたのでピンセットでつまみ上げた.なんと初カミキリである.そう,こんなに虫がいないのだ.
結局この倒木からはこのカミキリとゴミダマ2種くらいを出して終了.見かけ倒しだったなぁ…….
車まで戻って休憩していると,近くの花にアゲハチョウの仲間が飛んでいたので,大急ぎでほった君を呼ぶ.
台湾鳳蝶Papilio thaiwanus.ド普通種だったがほった君は大喜び.パピリオォ!
日中の部はこれで終わり.やっぱり虫が少ない.時期が悪いのか,それとも天気が悪いのか.
霧社の街で買いました.
夜見回りもここで.南山渓ではほとんど採れなかったからもうやりたくない.
ヒラタちゃんこと,Catapiestus subrufescens Pic, 1911.
ユミアシちゃん.
N田くんがアカマダラをつかまえました.そしてこの後……これ以上はヒミツです.
その他のゴミダマはそこそこ採れた.相変わらず少ないけど,採れないよりかはマシかな.(自分に言い聞かせる)
宿にはオオシモフリスズメが来ていた.
熱情的シャワーをひいひい言いながら浴びて寝た.
4日目に続く.
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3/27.今朝我起床了,外確認雨,我希死.
さっそく南山渓へ.
土砂降り.
こんなに雨ばっかりなら一刻も早く南投縣を脱出しよう!ということになって,あの宿には4泊する予定だったのを3泊に変更し,明日には台湾の南部の屏東縣に移動することにした.
さて,それをどうやって熱情的主人に伝えればいいだろうか?熱情的主人は,実は日本語が少し話せるものの日常的な会話をするには至らず,英語は通じないのでなんとか台湾の言葉でコミュニケーションを取る必要がある.
ということで.
これを書き,熱情的主人に見せてみた.すると…….OK!OK!と言ってもらえた.正直変更はできても1泊キャンセルの2500元は返ってこないだろうなあと思っていたが快く返還してもらった.なんと熱情的なのだろうか.
雨が弱くならないので霧社の街をぶらぶらと歩いた.
バンレイシを買った.かなりおいしかった.というか甘い.死ぬほど甘い.
夕方は昨日の場所に行き,採集をした.
材を割ったらでかいクロツヤムシが.しかもコロニーを当てたのかゴロゴロと出てきた.
ようちう.
夜見回りは,今までに採った種類しか見られなかった.
5日目に続く.